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クラレ・東レ…PFAS対応加速、素材メーカーが規制強化を商機に

クラレ・東レ…PFAS対応加速、素材メーカーが規制強化を商機に

クラレが製造する活性炭

素材大手が、規制が進む有機フッ素化合物(PFAS)への対応を強化している。米国で飲料水向けのPFAS規制強化が決まる中、クラレはPFASの除去に寄与する活性炭事業を拡大。東レは環境規制に応じ、PFASを使用しない先端半導体向けモールド離型フィルムを発売した。各社はPFAS問題に対処しながら、さらなる製品の技術革新と品質向上を目指している。(岡紗由美)

飲料水 高品質の水処理用活性炭

米国では4月、環境保護庁(EPA)がPFASに関する飲料水規制を最終決定した。飲料水中のペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)など6種類のPFASについて、最大汚染物質レベル(MCL)と呼ばれる法的強制力のあるレベルを設定。飲料水事業者は2027年までにモニタリングを実施し、基準値を超えた場合は29年までに対策の実施が求められることとなった。PFASの処理に利用可能な技術の一つである粒状活性炭を手がける素材メーカーにとっては、需要拡大の好機だ。

クラレは6月に開いた活性炭に関する経営説明会で米国での規制強化に触れ、「多くの自治体の水道事業者が、州の規制や世論の圧力などにより早期に対応する」と想定。活性炭を扱う環境ソリューション事業部の岩崎秀治事業部長補佐は「規制が強化されることで活性炭の交換頻度が高まる。活性炭の最大のサプライヤーとして、必要な能力を供給できるように事業を拡大していかなければならない」との意気込みを示した。同事業部の売上高を30年までに年平均10―13%伸ばしていく方針だ。

米国での飲料水規制の概要

その成長ドライバーの一つと位置付けるのが、水処理用などに展開する石炭系活性炭「FILTRASORB」だ。同製品の特徴は、表面と中心部でほぼ同じ吸着能力を持つこと。石炭を数マイクロメートル(マイクロは100万分の1)レベルまで粉砕した後、固めて再び数ミリメートル程度に破砕することで粒子同士の隙間を確保。これにより活性炭内部を含めて吸着性能を高め、吸着した物質が流出しにくくした。粉砕した石炭をいかにつぶさないように固めるかなど、独自の技術力で仕上げた製品だ。

クラレの強みは活性炭の用途に応じて細孔の大きさを制御し、必要な機能を持たせる独自技術とノウハウにある。石炭と木材、ヤシ殻のいずれの原料にも対応でき、除去したい分子の大きさに合わせた孔の分布を実現する製造方法を用意できる。併せて、品質の高さも特徴だ。原料には金属など不純物が含まれるが、分析能力を生かして不純物を特定。適切な除去工程を選ぶことができるという。複数の方法を組み合わせて不純物を取り除くことが、吸着率の高さにつながっている。

また、活性炭の製造で課題となる、温室効果ガス(GHG)排出量の削減にも取り組んでいる。その一例が、使用済み活性炭の再生だ。再生炭は新炭に比べ、GHG排出量を5分の1程度に低減できる。同社は使用状況や性能の劣化度合いを把握し、用法にあわせて再生プロセスを決定。これにより、新炭と同程度の性能を維持している。

クラレは現在、再生炭の拠点を米国各地のマーケット近くに複数構える。6月末には、産業用再生炭の製造販売や産業用機器レンタル事業を展開する米スプリント・エンバイロメンタル・サービス(テキサス州)から、産業用再生炭事業の譲渡を受けた。同拠点では産業用だけでなく、飲料水用再生炭の生産設備増強も視野に入れている。

半導体 離型フィルム、金型汚れ低減

東レは5月、先端半導体向けモールド離型フィルムを発売した。ポリエステルフィルムを使い、PFASフリーの離型層と革新的な微細構造制御技術「ナノアロイ技術」を活用することでフッ素系フィルムに近い柔軟性を実現。PFAS不使用ながら、モールディング工程で課題となっていた金型汚れを従来の5分の1以下に低減した。先端半導体製造の稼働率向上に貢献できると見ている。

東レが発売したPFAS不使用の半導体向けモールド離型フィルム

同製品は半導体パッケージングの後工程であるモールディング工程に使われる。モールド樹脂を覆い、外部環境から保護する役割を持つ工程で、モールド樹脂と金型の間には離型フィルムを設置するのが一般的だ。ただ従来の離型フィルムはPFAS材料が使われており、過度な柔軟性によるフィルム破れやシワの発生による歩留まり、生体への影響懸念が課題となっていた。

東レは独自技術により、金型汚れの原因物質を遮断するガスバリア性を向上。先端半導体の形状が複雑化していることを踏まえ、モールド成形時のフィルム破れや、シワがモールド樹脂に転写されるのを抑制する耐熱柔軟性も備えた。

同社はすでに、先端半導体分野を中心に想定を上回る問い合わせを受けているという。一部メーカーでは採用も始まっており、拡大に向けた評価も進んでいる。

フィルム事業本部ルミラー事業部門ルミラー事業第1部情報材料第2課の矢内真二課長は「30年をめどに、周辺用途を含めて売上高40億円を目標に掲げている。PFASフリーなど近年の環境規制への対応を進め、社会に貢献していきたい」と手応えを示す。

PFASの使用を避ける動きは、繊維分野にも広がる。足元ではPFAS不使用の撥水素材の開発や置き換えが進行中だ。帝人フロンティア(大阪市北区、平田恭成社長)では国内外の規制や欧米を中心とした顧客の声を受け、すでに大半がPFAS不使用の製品となっている。

日刊工業新聞 2024年8月15日

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