ニュースイッチ

「反転攻勢の足がかりに」…中国BYDが投入、旗艦EVセダン「シール」の性能

「反転攻勢の足がかりに」…中国BYDが投入、旗艦EVセダン「シール」の性能

発売した日本導入モデル第3弾の「シール」

中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)は新型車の導入を通じ、日本市場での輸入EV販売の「トップランナー」を目指す。乗用車販売を担う日本法人のBYDオートジャパン(横浜市神奈川区)は25日、日本導入モデルの第3弾となるセダン「シール」を発売したと発表した。2023年1月に日本の乗用車市場に参入して以降、順調に販売を伸ばしたが、24年4月と5月の新規登録台数は前年同月比で減少。「シールを反転攻勢の足がかりにして大きく伸ばす」(東福寺厚樹BYDオートジャパン社長)方針だ。

後輪駆動の「シール」と4輪駆動の「シールAWD」の2グレードを発売した。1充電走行距離(WLTCモード)はシールが640キロメートル、シールAWDが575キロメートル。消費税込みの希望小売価格はシールが528万円、シールAWDが605万円。

シールは「高い安全性」「優れた走行性」「シーンを選ばない快適性」の三つに焦点を当てた。安全性の高いリン酸鉄リチウムイオン電池(LiB)の薄い板状のブレードバッテリーを採用。同バッテリーを車体構造の一部として組み入れた独自技術により、堅牢(けんろう)なボディー剛性を確立した。

急速充電性能はこれまで投入した車種の中で最も高い105キロワットとなった。シールAWDではフロントとリアに異なるモーターを搭載し、電費抑制と力強い加速を実現した。また幼児の置き去りを検知する機能などを搭載し、安全性を高めた。東福寺社長は「BYDの潮目を変える存在にしたい」と力を込めた。

BYDの輸入車新規登録台数(月次)

世界的にEV需要が踊り場を迎える中、BYDはEV市場がまだ大きくない日本でも、そのあおりを受けている。23年1月にスポーツ多目的車(SUV)を、同年9月に小型車を日本で発売し、24年6月20日現在で累計受注台数は2521台で推移。ただ、日本自動車輸入組合(JAIA)の統計によると、4月と5月は前年同月比で新規登録台数が減少した。

東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストは「BYDの販売台数は世界のEV需要を反映しており、日本でもそれが表れている」と分析する。

シールは22年に中国で発売後、41カ国・地域で展開。24年6月上旬までで累計23万台の販売を誇るBYDの旗艦車種だ。欧米が中国製EVへの追加関税導入を打ち出すなど厳しい環境の中、日本で満を持しての導入となった。東福寺社長も「単なる新型車の追加ではない。シールはBYDブランドをけん引する重要なモデル」と位置付ける。

「新興メーカーが3年程度、芽が出ないのは普通の話」(杉浦シニアアナリスト)との見方もある中、旗艦車種を引っさげて日本での基盤を構築していけるか。BYDとして現在日本では予定していないプラグインハイブリッド車(PHV)の投入なども、日本事業拡大のカギとなりそうだ。

インタビュー デザイン・充電性能を訴求 BYDオートジャパン社長・東福寺厚樹氏

日本市場の戦略についてBYDオートジャパンの東福寺社長に聞いた。(大原佑美子)

BYDオートジャパン社長・東福寺厚樹氏

―日本で3車種目のEVとしてシールを発売しました。

「デザイン性に優れ、かつ高い充電性能を有するなどEVとしての性能も訴求したい。テレビコマーシャルで認知度が向上した。日本で3車種がそろい顧客の関心も高い。新たなスタートを踏み出せる環境が整った」

―シールの主なターゲットと販売戦略は。

「EVに関心のある人全員だ。他の車種もそうだが最初からターゲットを絞っていない。その中でシールは走りを楽しみたい人や、女性でもゆったりしたセダンに乗る人らに性能の良さを体感してもらい、売っていく作戦だ」

―年1車種以上の新型車を投入します。

「BYDの多くのラインアップの中から25年前半に日本に導入する予定の車種について最適なものを検討している。既存3車種をしっかり売って日本での基盤が整った先に、高級車種の投入の可能性を探りたい」


【関連記事】 EVでも成長を目指すオイルシールメーカーの圧倒的強さ
日刊工業新聞 2024年6月26日

編集部のおすすめ