トヨタ・ホンダ・日産が開発推進、米中先行「SDV」の勝ち筋は?
自動車メーカー各社が次世代車「ソフトウエア定義車両(SDV)」の開発を推し進めている。スマートフォンのようにソフトウエアで外部と通信し、車の機能を更新して安全・安心やエンターテインメントなど新たな価値を提供。従来のクルマづくりを変え、新たなビジネスを生み出す可能性を秘める。SDVが2030年以降に主流になると見込まれる中、ハードウエアを軸に世界をリードした日本の自動車産業は競争力確保に力を注ぐ。(編集委員・村上毅、同・政年佐貴恵)
異業種・新興とタッグ API標準化カギ
「SDVは新しい車の価値になる」。ホンダの三部敏宏社長はこう力説する。ホンダは30年度までの10年間で電動化やSDVなどソフト領域に10兆円を投資する方針を打ち出し、SDVなどの開発に2兆円を投じる。米IBMと次世代半導体やソフト技術に関する長期的な共同研究開発に関する覚書を結び、世界最高レベルの処理速度と省電力性能を備えた競争力の高いSDVの実現につなげる。
トヨタ自動車は「モビリティカンパニーへの変革に向けた投資」として24年度に1兆7000億円を投じる計画。重点取り組みテーマの一つに「トヨタらしいSDVの基盤づくり」を掲げる。「インフラや生活に寄り添ったアプリケーションやサービスなど自動車産業を越えた『戦略的パートナーシップ』の構築に取り組む」(佐藤恒治社長)方針だ。
日産自動車は長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」でSDVによる新たな顧客価値と収益創出を描く。25年からネットワーク経由でソフトを更新する技術「オーバー・ジ・エア(OTA)」の機能を拡張して運転支援技術や電動パワートレーン(駆動装置)などの機能を更新する。また日産とホンダは電動化と知能化に向けた協業を検討しており、SDVもテーマの一つとなる。
SDVの意義は自動車の性能向上や機能の追加・拡充がソフトの更新で継続的に迅速に実現できることだ。車両の安全・安心のほか、エンターテインメントやインテリア、エネルギー管理など機能を常に最新の状況に更新する。自動車にとらわれない新たな価値を提供し、利用者が追加機能やサービスを自由に選択できる。「ソフトの作り方も変わり顧客と継続的な関係を築くことができる。新しいビジネスが生まれる原動力になる」(自動車部品メーカー幹部)。
車両の開発や設計が抜本的に変わる。ハードとソフトの開発が分離され、開発の効率化や開発工数の削減が期待される。OEM(自動車メーカー)幹部は「今の車みたいに(フルモデルチェンジまで)『6年周期』とかの話ではなくなる。スマホと同様に開発スピードが上がる」と予見する。
競争力のあるSDVの開発には、半導体や高性能センサー「LiDAR(ライダー)」、高精度3次元(3D)地図など走行性能に直結する要素技術が不可欠。知能化や生成人工知能(AI)なども組み込まれる。
OEMだけでサービスを提供するのには限界がある。異業種やスタートアップの参画や連携を促すためにも、ソフトをつなぐ汎用プログラムインターフェース(API)の標準化など協調と競争がカギを握る。
米中先行、垂直統合でソフト内製 ITベンダーも市場狙う
SDVの開発ではEV大手の米テスラや比亜迪(BYD)をはじめ、米中の新興OEMが先行する。車両のモデル数が少なく、既存の事業資産や事業にとらわれない開発や資本投下が可能で、豊富なソフト人材など必要な経営資源も確保されている。欧米では一部の企業がSDV化とOTAによるサービス提供のビジネスを開始。半導体メーカーなどからの異業種参入もある。マークラインズ(東京都千代田区)の二多田淳情報プラットフォーム事業本部情報2部長も「テスラやBYDは垂直統合でソフトも自社で取り組もうとしている。一方、ITベンダーも大きな市場を狙っている。既存のOEMは競争の中でどう付加価値を高めるか、自動車部品メーカーは生き残るためにどうするかを模索している。どれが正解ではなく、それぞれが入り乱れて今は過渡期にある」と指摘する。
APIの標準化の動きも世界で活発化している。中国汽車工業協会(CAAM)は傘下のSDVワーキンググループでSDVの「API参考規範」を発表し、標準化を推進。同グループにはBYDなど100社以上のOEM、サプライヤーが参画する。日本のOEM幹部は「APIの共通化で開発スピードが上がる」と指摘。EVで中国メーカーが台頭する中、「SDVの技術が手の内化される危機感が強い。同じ時間軸で日本でも協調と競争のプラットフォームを考える必要がある」と指摘する。
経産省・国交省、DX戦略で勝ち筋探る
経済産業省と国土交通省は5月下旬にまとめた「モビリティDX(デジタル変革)戦略」で、30年にSDVのグローバル販売における日系のシェアを3割にする目標を掲げた。実現に向けたキーワードが、企業などの枠組みを超えた「協調体制」だ。
同戦略ではサイバーセキュリティーや高精度三次元地図といった9領域を協調領域と位置付けた。中でも柱に据えるのがAPIの標準化だ。
APIはソフトウエア同士が情報をやりとりするためのツール。経産省は、標準化により自動車業界以外からの参入が進みサービスが広がるほか、業界全体の開発効率化につながるとみる。一方でAPIがカバーする範囲は走行からエネルギー制御、車内の操作系まで幅広い。標準化する範囲や、各社が保有するAPIをどう公開するかなど課題は多い。こうした議論を進め、取り組みについて夏までに結論を出す方針だ。
このほか先端半導体では「自動車用先端SoC技術研究組合」にトヨタや日産、ホンダなど14社が参画し、共同開発を実施。28年までに要素技術を確立し、30年以降の量産化と自動車への搭載を目指す。車両や部品の設計、安全性や機能の検証などへのシミュレーション活用に向けたデータ共有についても検討する。
技術範囲が広く従来以上に開発コストがかかるSDVでは「協調が不可欠だ」との認識は各社共通だ。とはいえ、車を動かすための基盤となる自動車用OS(基本ソフト)が競争領域と位置付けられるように、ソフトウエア領域は各社がしのぎを削る分野の一つでもある。「グローバル競争の中で戦っている以上、同じような製品を扱う企業はどうしても競合になってしまう」(大手自動車部品メーカー首脳)。モビリティDX戦略には、24年秋をめどに人材の獲得や育成、企業間の情報共有や連携促進などを検討するコミュニティーとして「モビリティDXプラットフォーム」の立ち上げなども盛り込まれた。こうした場も活用しながら連携のあり方を探っていくことが、当面のテーマになる。
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