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異色の歴史を持つ自動車部品金型メーカーの倒産劇、抱えていたジレンマ

エム・ビー・シーは1989年7月に設立された。もともとは、現代表の母親が美容院や健康食品販売の事業を行っていたが、94年に自動車部品用金型の設計・製造業へと大きく業態転換するという異色の歴史がある会社だ。ハイブリッド車のエンジン部分に使用される電装部品を主力に、プレス電光部品の金型の設計やスタンピング加工、試作・量産金型の製造を行っていた。

主力の得意先は世界的なコネクターメーカー傘下の企業で、受注全体の80%以上を占め、同社工場に隣接する静岡県の掛川市に自社の工場を置くなど、ほとんど1社依存の体制を構築していた。世界有数の自動車メーカーにひも付く業態であることから、安定した受注を確保できていた半面、なかなか依存状態から脱却できないというジレンマを抱えながらも、2015年6月期には売上高約10億7300万円を計上していた。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大による世界的なサプライチェーン(供給網)の混乱を受けて、状況が一変する。業界としても原材料の確保が難しくなったことで、同社の属する商流でもサプライヤーを集約する動きが強まった。これによって小ロットの発注が中心となった結果、23年6月期の売上高は約5億1900万円にダウンしていた。元来、熟練の加工技術者が多く従業員の高齢化が進んでいたほか、工場設備の老朽化なども課題となっていた中で、経費圧縮も限界の状態にあった。各種コスト上昇も大きく、直近の1年で急速に手元資金が枯渇、24年3月に自己破産手続きを余儀なくされた。

大手自動車メーカーによる取引価格の適正化など、サプライチェーン管理がクローズアップされている。関連する企業は国内に約6万社、取引総額は約42兆円に及ぶが、こうした商流への依存を余儀なくされている中小工場は、同社のように人員面、設備面で柔軟性を欠いているケースも多いと推察され、動向には注目が必要だ。(帝国データバンク情報統括部)


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日刊工業新聞 2024年6月20日

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