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三井物産・双日・兼松…商社がたんぱく質確保に走る理由

三井物産・双日・兼松…商社がたんぱく質確保に走る理由

インドのスネハ・ファームズの鶏肉加工工場

商社が食品の供給事業を強化している。三井物産が高たんぱく質・低脂肪の鶏肉やエビの海外大手への出資を拡大しているほか、双日は植物由来の代替肉を共同開発する企業連合を発足した。兼松は環境負荷を低減しながら生産された豚肉の販売先に対し、二酸化炭素(CO2)排出削減量を提示する。世界的な人口増加に伴うたんぱく源の不足や気候変動への対応を推進し、持続可能な社会形成を後押しする。(編集委員・田中明夫)

健康・環境、ニーズ多様化に配慮

※自社作成

世界のたんぱく質需要が供給を上回るプロテインクライシス(たんぱく質危機)が懸念されている。世界人口は2050年代に現状比約25%増の100億人に達すると見込まれることに加え、新興国の経済発展に伴う肉食需要の拡大も想定されるためだ。

牛肉などを代替するたんぱく源として大豆など植物性の加工食品を開発・販売する動きは広がっているが、供給不足への警戒は続く。野村総合研究所の推計によれば、18年に均衡していた世界のたんぱく質需給は30年時点で約2000万トン、50年時点で約3000万トンの供給不足となる見通し。

また50年の動物性たんぱく質需要は、18年比2倍の1億8000万トンに拡大する見通しで、引き続き食の嗜好(しこう)への対応も必要となる。健康志向や環境対応など広がる消費者ニーズや持続可能性にも配慮しながら、たんぱく源を確保することが課題となっている。

三井物産 鶏肉・エビ生産に出資、供給網拡大/漢方薬と新価値創造

三井物産はインドの肉用鶏(ブロイラー)生産大手スネハ・ファームズに300億円超を出資し、25年3月期中をめどに同社を持分法適用会社にする予定だ。高たんぱく質・低脂肪の鶏肉は、飼料効率が高く環境負荷が低いことに加えて食文化の宗教的制約が少ない。健康志向の高まりにも応える食品として、拡大する需要を取り込む計画だ。

三井物産は24年に入りエジプトのブロイラー生産大手ワディ・ポルトリーに出資したほか、鶏肉と同様に高たんぱく質・低脂肪のエビ養殖大手のエクアドルのインダストリアル・ペスケラ・サンタ・プリシラにも出資。三井物産子会社で鶏肉加工のプライフーズ(青森県八戸市)などグループ企業の知見を生かしながら、中期経営計画で掲げる「健康に通じる食」の供給網を拡充している。

シンガポールのユーヤンサンの漢方製品

また三井物産はロート製薬と共同でシンガポールの漢方薬製造大手ユーヤンサン(EYS)を買収する。特別目的会社(SPC)を通じ7月にも始まるTOB(株式公開買い付け)などを経てロート製薬が60%、三井物産が30%、EYS創業家が10%の株式を実質的に保有する予定だ。

EYSはシンガポールやマレーシア、香港を中心に漢方のほかサプリメントや健康食品の開発・販売も手がけている。三井物産がアジア圏で出資参画する病院運営事業のほか「香料や機能性食材の事業と組み合わせることで新たな価値を創造できる」(三井物産の渡辺徹執行役員ニュートリション・アグリカルチャー本部長)とする。商社のネットワークを生かして健康や食の事業で相乗効果の発揮を狙う。

双日 代替肉開発で企業連合/質・価格課題、食習慣を変革

双日は外食大手のロイヤル(福岡市博多区)や丸大食品、松屋フーズ(東京都武蔵野市)などと共同で、植物由来の代替肉などを開発する新会社フードテックワン(同港区)を23年末に設立した。素材調達や肉料理の開発・販売に強みを持つ企業がそれぞれの知見を融合し、消費者ニーズを反映した商品開発を目指す。

健康志向に伴う菜食需要の増加やたんぱく質危機への懸念を背景に代替肉への関心が高まっているが、国内では品質や価格面などの課題を背景に消費が伸び悩んでいる。双日のリテール事業第二部副部長でフードテックワンの社長を兼務する池本俊紀氏は「双日グループ単独での展開は厳しい中、知見のある企業と共同で消費者認知度や食習慣を変えていきたい」と語る。

大豆ミートを使った煮込みハンバーグ

開発対象は大豆など豆類を使ったハンバーグやカレー、スープのほかココナツミルクなどの乳製品と幅広い。すでに参画企業が開発・販売している商品もあるが、各社のノウハウを掛け合わせて品質向上に取り組む。

双日は18年に複数の牛肉・豚肉関連の企業などと共同でマーケティング会社ミートワン(同港区)を設立し、畜肉加工品の販売力強化を推進してきた実績がある。双日子会社の双日食料(同港区)の小泉豊社長は「ミートワンの運営で得たアライアンスの経験も生かして(代替食品をめぐる)課題を解決していきたい」とする。

素材調達から加工・流通、小売りに至るまで関連企業との幅広い接点がある双日の強みを生かし、食の変革に挑む。

兼松 欧社と連携、豚肉販売で温室ガス削減推進

デンマークのダニッシュ・クラウンの肉処理工場

兼松は欧州最大級の食肉加工企業であるデンマークのダニッシュ・クラウンと連携し、環境負荷の低減に配慮した豚肉製品の国内販売を推進する。ダニッシュが、家畜の排せつ物から回収したメタンガスの燃焼に取り組む企業などと協力して温室効果ガス(GHG)の排出を削減。豚肉の国内販売先に対してカーボンフットプリント(製造から廃棄までのCO2換算排出量の合計値)を提供し、供給網全体のGHG排出量「スコープ3」の削減ニーズに対応する。

また環境に配慮した商品であることを訴求するラベリングを検討するなど、マーケティングや広報戦略でもダニッシュと連携する。約40年間にわたって食肉を取引してきたダニッシュとの間で「おいしさや品質・安全性だけでなく、あらためてサステナビリティーに焦点を当てる」(兼松の宮部佳也社長)とし、協業関係を発展させる。

兼松は27年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画で、農業や食品分野のグリーン・トランスフォーメーション(GX)を戦略の柱の一つに掲げた。環境負荷の少ない食料や飼料、肥料などの供給を強化し、持続可能な食の供給網の構築を推進する。

日刊工業新聞 2024年04月29日

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