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崩壊の危機迫る「水インフラ」、メタウォーターが提案する「地域で守る」

崩壊の危機迫る「水インフラ」、メタウォーターが提案する「地域で守る」

過疎地での水インフラは都市部のようなメンテナンスが望めない(イメージ)

老朽化した橋や道路が次々に崩壊する「インフラクライシス」の懸念が全国各地で高まっている。財政難に加え、人手不足も深刻な上下水道にも崩壊の危険が迫る。そこで上下水事業大手のメタウォーターは危機を回避しようと、住民参加型で水インフラを維持するプロジェクトを提案した。デジタル技術を活用し、地域の水インフラを地域全体で守る意識の醸成も狙う。(編集委員・松木喬)

設備点検・緊急措置 住民の参加促す

メタウォーターが提案したプロジェクトは、地域から募った協力者に設備の見回りや緊急時の応急処置を担当してもらう。定年退職者や社会性の高い仕事への関心の高い学生、副業を探す人、地元企業の参加を想定する。協力への対価として買い物に使えるクーポン、地域行事に優先的に参加できる権利を考えている。

同社は2月、プロジェクトを公表し、自治体の上下水道事業者への提案を始めた。発案者である中村靖会長は「担い手不足が大きい」と危機感を募らせる。人口1万人未満の自治体では、水道事業の職員は平均4人。3万―5万人でも12人だ。経理や契約などの事務系職員を除くと、技術者はさらに少ない。

住民参加型プロジェクトを発表する中村靖メタウォーター会長

極度の人員不足の状況なので、「住民に一時的に設備を見てもらうだけでも大きな効果がある」(中村会長)と訴える。協力する住民は、空き時間に出かけて必要な点検を済ます。それだけでも職員の負担は軽減され、他の業務に専念できる。

プロジェクトには、住民を水インフラに“近づける”効果もある。人口減少や節水機器の普及によって水使用量が減少し、水道事業の収入が落ち込んでいる。老朽化した設備の更新費用を捻出するために水道料金を値上げしたくても、議会や住民からの反対に遭う。だが、放置すると故障が発生するだけでなく、財源不足で復旧もできず水インフラが途絶える最悪な事態が想定される。

プロジェクトが契機となり住民にも課題が理解されると、料金について前向きな議論ができると期待している。住民の目が入るので必要な投資に抑えられ、市民の負担も軽くなる。

※自社作成

メタウォーターはプロジェクトの実現を検討するうち、「DAO」と呼ばれるウェブ上で会員組織を運営するシステムに出会った。住民の登録や研修の受講、協力実績や対価の履歴を管理できる。「共通の目的を持った人が集まれる基盤」(中村会長)と説明する。

自社開発を見送り、フレームダブルオー(東京都渋谷区)が提供するDAOの活用を決めた。同社は15年の設立だが、海外からも引き合いがありスイスにも拠点を持つ。メタウォーターは6月には水インフラ用のDAOを稼働させ、10月には実績を出す方針だ。300カ所で展開し、運営費で売上高10億円を見込む。中村会長は「水インフラをみんなのモノと考え、みんなで守る考え方が大切」とも強調する。

脱炭素と関連業種横断 過疎地に再生エネ・EV導入

日本総合研究所の瀧口信一郎シニアスペシャリストは、脱炭素と関連したインフラ問題の解決を提案する。「クロス・セクター(業種横断)で考え、そしてインフラ・シェア(共有)によってコストを下げる」とメリットを説明する。

具体例の一つとして過疎地への再生可能エネルギーと電気自動車(EV)の導入を挙げる。過疎地には運転ができなくなった高齢者が生活している。運転ができる近所の住民が通勤のついでにEVを使って高齢者を送迎し、対価として地域で使えるクーポンを受け取る。交通弱者の問題解決だけでなく、再生エネの普及にもつながる。また、災害時にはEVに充電した電気を地域住民が使える。

交通弱者、脱炭素、災害の問題を別々に解決しようとするとコストがかかる。再生エネとEVをすべての解決に“シェア”するとコストを低減できる。

地方ほどインフラクライシスの可能性が高いが、行政頼りでは対応に限界がある。複数のインフラをまとめて運営するような新しい発想には、企業がビジネスで培った技術や知見が生かせそうだ。新興企業のデジタル技術も有望だ。

日刊工業新聞 2024年04月26日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
水道が故障しても長期の断水はないだろう、早期復旧が当然という思い込みがあります。そうではないことが、能登半島地震で痛感しました。自分が生活している地域の水道が敷設から何年経過しているのか、職員は足りているのか、経営はどうなのか、考えてことがなかったです。日ごろからインフラに関心を持つことから始めたいです。

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