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グローバルサウスに攻勢、「共創」で経済関係強く

グローバルサウスに攻勢、「共創」で経済関係強く

昨年12月に都内で開かれた「GZEROサミット」でグローバルサウスとの連携強化を宣言する岸田首相

日本企業の進出支援カギ

世界の目がグローバルサウス(南半球を中心とする新興・途上国)に集まっている。豊富な資源を抱え高い経済成長を見込む同地域は、国際社会の趨勢(すうせい)を決める存在になった。日本にとっても経済安全保障やサプライチェーン(供給網)強靱(きょうじん)化の観点で連携が欠かせず、経済産業省が日本企業の進出と現地の産業育成を促す支援事業を実施。キーワードは「共創」だ。ただ脆弱(ぜいじゃく)なインフラなどリスクもある。支援のあり方をアップデートできるかがカギだ。(編集委員・政年佐貴恵)

パートナー探しなどソフト面重要

グローバルサウスはインドや東南アジア、中央アジア、南アフリカなど南半球を中心とした新興・途上国や地域を指し、主に北半球を中心とした先進国の対義語として扱われる。三菱総合研究所は2050年にかけて名目国内総生産(GDP)の合計が米国や中国を上回り、人口は50年に世界の3分の2を占めると予測。高い潜在性を取り込もうと各国が攻勢をかける。

名目GDPシェア

「世界のサプライチェーンを議論する上で、グローバルサウスの国々に目を向けないわけにはいかない」。23年12月に開かれた国際会議で、岸田文雄首相はこう強調した。日本が同地域を重視するポイントは三つ。高い市場成長性と、レアアース(希土類)などの重要鉱物を有する経済安保上の重要性、国際秩序形成の要諦になると位置付けている点だ。

人口

特に中国依存が顕著な重要鉱物は、チリがリチウムで30%、インドネシアがニッケルで28%の世界生産シェアを握る。岸田首相はグローバルサウスを「彼らは世界のサプライチェーンの一翼を担うことを強く希望している」とし、相手のニーズを汲み取り関係を構築する方針を示す。その実行部隊となるのが、経産省が実施する総額1400億円の予算を充てた「グローバルサウス未来志向型共創等事業」だ。

経産省幹部は「支援以外の経済関係を強化しなければいけない」と話す。中国も取り込みを強化しているグローバルサウスは“引く手あまた”の状態。お仕着せ型の支援や一方的な利益享受では共感を得られず、共創の姿勢が重要だ。そこで同事業では人工知能(AI)の社会実装など現地の産業創出や高度化、人材育成などに資する案件に対し、生産拠点や技術展開といった日本企業の進出支援を講じる。外貨獲得だけでなく、現地の社会データや高度人材などの環流による国内産業の強靱化も狙う。

グローバルサウスに対する企業の関心は高い。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によれば、中国から東南アジア諸国連合(ASEAN)やベトナム、インドなどへのシフトが鮮明になった。藪恭平課長代理は「地政学リスクを受け、投資が相当増えていくだろう」と話す。政府支援と方向性は一致する。

しかし、法規制の急な変更や政情不安、電力といったインフラの未整備、サプライチェーンの不足など課題も多く、進出後の事業継続に頭を悩ませる企業は多い。藪課長代理は「こうしたリスクを総合的に考えなければ進出しても当初の目的を果たせない可能性がある」といい、「ハードに加え、現地のパートナー探しといったソフト面の支援が重要になる」と指摘する。グローバルサウスは今後の発展が見込める市場だ。“ウィン―ウィン”の関係構築には、きめ細かく腰を据えた取り組みが必要になる。

現地産業創出、大型事業に40億円

政府はグローバルサウスと日本企業との経済連携を強化するため、新たな支援策「グローバルサウス未来志向型共創等事業」を実施する。日本のサプライチェーン強靱化や、グローバルサウス各国の産業創出につながる事業に対し、設備投資などを伴う大型事業に最大で40億円を補助する。

日本の持続的な成長には各国との連携を強化し、重要鉱物の調達やビジネス創出を図ることが欠かせない。そこで経産省は同事業を通じ、各国でのインフラ整備実証や市場調査などを補助する。小規模事業については最大で5億円を補助する。

現地の人材・産業育成や社会課題の解決につながることを前提とする。目的別に三つの類型を設定し、そのうちの一つである共創型では相手国のデータを日本の産業に活用することなどを想定し、日本のイノベーション創出にもつながる事業を対象とする。

グローバルサウスの中でも、今後の発展が期待されるのがアフリカだ。経産省は21年度補正予算から、アフリカでの実証事業や現地企業とのマッチングなどを支援する事業を実施している。デジタル技術を活用した事業展開や、現地の社会課題解決を目指すスタートアップなどの進出を促すのが狙い。24年度も10件弱を採択する見通しだ。

特にヘルスケアや食料、モビリティーといった領域のほか、例えば南アフリカ共和国の電力は石炭火力発電が中心となっているなど、脱炭素への移行技術もニーズが高い。事業化できれば域内の他の国にも横展開できる可能性があり、日本企業とアフリカの双方にメリットがある。資金面や事業可能性調査など進出のための環境を整備し、アフリカへの投資を後押しする。

各国の状況 インド、EV移行推進/南ア、“窓口”に

グローバルサウスの盟主を自任するインドは名目GDPが約3兆7300億ドル(国際通貨基金〈IMF〉統計、23年ベース)で、日本に次ぐ世界5位と存在感を放つ。23年4月末には世界最大の人口大国となった。製造業振興を進め、電気自動車への移行や関連インフラの整備が進む。このほか、アジアではインドネシアは名目GDPが約1兆4100億ドル(同)だった。石油や天然ガス、ニッケルなどの資源が豊富で、自動車や2輪車関連の製造業が盛んだ。

一方、アフリカではBRICSの一角を占める南アフリカ共和国の名目GDPが約3800億ドル(同)。輸送やエネルギー、金融分野も整備され、アフリカへの窓口として重要な存在だ。プラチナなどを産出する。ナイジェリアは名目GDPが約3900億ドル(同)で、主な産業は農業、原油、天然ガスなど。人口や経済規模がアフリカの中でも大きく、市場の潜在性が高い。

またグローバルサウスの大国であるブラジルは名目GDPが約2兆1200億ドル(同)と南米で最も経済規模が大きい。鉄鉱石や石油といった資源が豊富で自動車、航空機、鉄鋼、石油化学などの産業分野が経済を支える。

日刊工業新聞 2024年4月24日

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