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「5類」移行後初のGW、国内観光地の期待と懸念

「5類」移行後初のGW、国内観光地の期待と懸念

観光客数がコロナ前の水準近くまで回復し、活況が戻りつつある「横浜赤レンガ倉庫」周辺

オーバーツーリズム懸念

新型コロナウイルス感染症の「5類」移行後初めてとなる5月の大型連休。経済活動が本格化しつつある中、観光産業はコロナ禍の反動から需要も回復基調にある。特にインバウンド(訪日外国人)は円安などを追い風に伸びており、3月には単月として過去最高となった。観光地ににぎわいが戻ってきた一方、観光客が集中する一部の地域では住民の日常生活に支障が出るオーバーツーリズム(観光公害)への懸念も高まる。国内観光地の今を追った。(特別取材班)

東日本・北海道 急がれる人手不足対策

大正ロマン漂う風情で多くの観光客が訪れる山形県尾花沢市の銀山温泉。尾花沢市では大型連休について「かなりの来客を見込んでいる」(商工観光課)と期待する。特に中国や韓国などアジア系のインバウンドからも人気で「宿泊は半年待ちとの声も多い」(同)という。

長野県では「大型連休の観光客数はコロナ禍前の水準を上回るのでは」(観光誘客課)と予測する。中国や韓国に加え、欧米や豪州の客に1度の消費額を大きくする「質」を重視した体験を提供。県内機関と連携し、自然や文化など県の魅力を通年で発信する。茨城県は台湾からの観光客をターゲットに現地の旅行代理店と連携して県内を巡るツアーを実施しており、反応も上々だという。インバウンドの誘致は各自治体にとって重要なテーマとなっている。

ホテルなどの宿泊者数もコロナ禍前の水準に戻りつつある。神奈川にある横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ(横浜市西区)の宿泊稼働率は直近で2019年度比5ポイント減、外国人宿泊比率は47・3%まで回復した。石原哲也常務取締役総支配人は「変わらない横浜の魅力に加え、人がつくり出す新たな横浜の価値を提供できるよう取り組んでいく」と話す。

札幌市のシンボル「札幌時計台」には記念写真を撮る観光客が絶えない

こうした観光需要の回復に伴って問題化するのがオーバーツリーズムだ。歴史ある神社仏閣が点在する神奈川の鎌倉市観光協会は観光客の増加を見込むが、コロナ禍前のようなオーバーツーリズムが再燃しかねず「滞在期間を延ばして多様な鎌倉の魅力をじっくり楽しんでもらいたい」という。

さらに「コロナ禍前に比べ観光客は減ったが、対応する人間も減っている」(札幌市中央区の老舗料理店)とオーバーツーリズム現象が起き始めているという。人手不足に端を発した路線バスの大幅減便が相次ぎ、大型連休や夏の観光シーズンに向け受け入れ側も不安を募らせる。

京都 人気の場所、特急バスで結ぶ

オーバーツーリズムが顕在化している京都では観光客急増による混雑、マナー違反で市民の不満が噴出する。3月のインバウンドは過去最高だったが、有名観光地に集中し、地方誘客は道半ば。観光客と共存も模索されるが、即効性ある対策は見当たらない。

JR京都駅前のバス停は観光客で長蛇の列

古都・京都の有名観光スポットは日本人よりも欧米や東アジア、東南アジア、南アジアからの旅行者が平日・休日を問わずに目立つ。スマートフォン片手に公共交通機関の経路を検索し、スーツケースを引いてバス停や駅で列をなす外国人で市内を走るバスや電車はにぎわい、大混雑する。

コロナ禍中の渇望と裏腹に、今はあふれかえる観光客で市民生活に支障が出る。そこで京都市は観光客の利用も多かった市バスが1日乗り放題になる「バス1日券」の発売を23年秋停止し、3月末で利用も止めた(市営地下鉄・市バス1日券は継続)。6月から混雑緩和狙いでJR京都駅と人気観光地を結ぶ「観光特急バス」の新設も予定する。料金は均一運賃の2倍超の500円。土日祝運行で市民と観光客を分ける狙いだが、効果に対しては懐疑的な見方も多い。

ゴミの不法投棄、私道通り抜け、舞妓や個人宅の無断撮影などには多言語のチラシや看板などでマナー啓発するが効果は限定的。京都市内は観光客向け施設やホテル、富裕層向け高級住宅が増え、地価が高騰。若い世代を中心に周辺自治体へ流出して人口は減っており、対策が急がれる。

北陸 新幹線・応援割追い風に

北陸新幹線が3月16日、金沢-敦賀間で延伸開業。北陸の観光需要回復を後押しする(敦賀駅のホーム)

北陸地域の観光需要は能登半島地震で落ち込んだものの、北陸新幹線の延伸開業や国が能登半島地震で被害を受けた地域の観光支援のために実施した「北陸応援割」が追い風となり、復活に向かっているようだ。

北陸財務局が発表した管内経済情勢報告によると、北陸3県(富山・石川・福井)の主要観光地の入込客数と主要温泉地の宿泊客数は前年を下回っているものの、足元では「北陸新幹線の敦賀延伸や北陸応援割の効果もあって、能登地域(石川県北部)以外では回復してきている」と評価する。

東海 中部国際空港の利用促進

一方、東海地域の観光需要はコロナ禍からインバウンドの回復の遅れが指摘される。中部運輸局がまとめた管内5県(愛知、岐阜、三重、静岡、福井)の23年の年間延べ宿泊者数(速報値)は5618万人で19年比10・6%減とコロナ禍前の9割の水準。このうち外国人の延べ宿泊者数は同47・1%減と半減の状態だ。

この事態に対し、中部運輸局は中部経済連合会、名古屋商工会議所、中部国際空港と同空港の利用拡大に向けたキャンペーンを展開する。地域の企業に同空港の利用を促し、地域のアウトバウンド(日本人の渡航)需要の底堅さを示し、航空会社に同空港への国際便の就航を促進。インバウンド回復につなげる狙いだ。

熊本 TSMC進出、訪日客増加/体験充実、コト消費で誘客

台湾積体電路製造(TSMC)の進出に伴う外国人の移住が増えている熊本県ではアジアからのインバウンド需要への期待が膨らむ。

熊本城を中心とした市街地には、にぎわいが戻ってきた

熊本空港(熊本県益城町)からの直行便は台湾に週12便、韓国に週7便、香港に週4便が就航。同空港の23年度の旅客数は320万人超の見込みで、コロナ禍前の水準に戻ってきた。このうち国際線の旅客数は20万人以上となり、開業以来の過去最多を見込む。

熊本県は23年から観光プロモーションの代表者(観光レップ)を台湾に設置し、県の魅力を現地の旅行業者などに発信。熊本国際観光コンベンション協会(熊本市中央区)によると、国内外からの訪問者数はコロナ禍前に戻りつつあり、台湾からの訪日外国人客が増えているという。

同協会では熊本を代表する熊本城を中心とした観光資源を生かした観光客の誘致に取り組む。金属を用いた地場の伝統工芸「肥後象がん」の製作体験プログラムを充実させ、観光客の「コト消費」を喚起する。

一方、熊本城近隣の土産品店や飲食店などが集まる施設「桜の馬場 城彩苑(じょうさいえん)」は23年度の売り上げが11年の開業以来過去最高を記録しており、観光客に対するサービス機能が期待されている。

日刊工業新聞 2024年4月25日

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