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変わる鋳物づくり…工作機械の背中押す脱炭素と調達リスク

変わる鋳物づくり…工作機械の背中押す脱炭素と調達リスク

DMG森精機は鋳物部品の再資源化を進める(子会社のDMG MORIキャステックの鋳造工程)

工作機械業界でベッド(土台)やコラム(柱)といった構造体や接続部品などに使う鋳物の生産工程や調達を見直す動きが広がっている。再資源化の仕組みを作ったり、産業用ロボットなどを用いて鋳物部品の生産工程を刷新したりする試みが始まった。また構造体を別素材に代替するメーカーも現れている。脱炭素化の必要性や、国内鋳物生産量の減少を背景に鋳物部品の調達リスクの高まりが工作機械メーカーの背中を押している。(特別取材班)

部品を原料に再資源化/先端技術で効率生産

DMG森精機は工作機械の使用済み鋳物部品を回収し、再び同社製工作機械の鋳物部品の原料に再資源化するサーキュラーエコノミー(循環経済)の構築に着手した。顧客から廃棄対象の同社製工作機械を引き取り、協力先の解体業者で鋳物部品を抽出して細断。子会社で鋳物の原料として溶解し、工作機械のベッドやコラムなどの部品の鋳物を製造する。2023年までに成分や剛性など工作機械の鋳物部品としての適性を検証。解体業者と子会社で回収した鋳物の成分を分析するなど品質確保の仕組みも作り上げた。

24年は約100台の工作機械を引き取るほか、DMG森精機の鋳物の加工工程で発生する切り粉も回収して約560トンの鋳物原料を調達。銑鉄から鋳造する場合と比べ約900トンの二酸化炭素(CO2)削減効果を見込む。25年には切り粉の回収先を協力会社に広げて計約1000トンの鋳物原料を調達し、同約1800トンのCO2削減を目指す。

DMG森精機はCO2排出量を独自に費用として換算する「社内炭素価格(インターナルカーボンプライシング、ICP)」を導入している。藤嶋誠副社長は解体した鋳物部品の物流効率化などコスト削減を進め、「25年までにICP基準で銑鉄を調達して部品を鋳造する場合と同等の費用対効果を実現したい」としている。

オークマと木村鋳造所は先端技術で鋳物部品の生産を刷新する実証に取り組む(木村鋳造所の生産ラインで砂型を搬送するロボット)

先端技術で鋳造部品の生産効率を劇的に高め、調達リスクを抑え込もうとする試みもある。オークマは調達先である木村鋳造所(静岡県清水町)と協力し、接続部材や支持部材などの中・小型鋳物を完全自動で作る実証実験に挑んでいる。

砂型加工から注湯に至るまでを自動化する新手法を開発し、砂型の製作や型合わせ、搬送といった作業をロボットがしたり、従来は木型だった中子を3次元(3D)プリンターで作り、木型の設計から製作や保管・補修にかかる作業を省力化したりしている。

また、製造に必要なデータはオークマの部品の3Dデータから一貫で効率的に生み出す方法を編み出した。オークマが部品の形状の3Dモデルのデジタルデータを生成。それを基に、木村鋳造所が砂型や中子に必要なデータを作って、それぞれの生産に活用する。

こうしたデジタルデータの連携とロボット、3Dプリンターを駆使することで、従来の4分の1の人員で夜間・休日の連続稼働を実施したり、2週間のリードタイムを最短3日に短縮したりするなどを実現済み。オークマは実証で得られた成果を他の鋳物部品の調達先にも展開することを視野に入れている。

「ミネラルキャスト」脚光、エネ消費量削減

ヤマザキマザックの米国生産機種で採用しているミネラルキャスト

一方、土台などの構造体について、鉱石と樹脂の複合材料である「ミネラルキャスト」の導入を広げようとしているのがヤマザキマザックだ。これまで同社で米国生産の一部機種で他社から調達したミネラルキャスト部品を採用した事例はあったが、24年度中に内製したミネラルキャスト部品を用いた国内生産の新機種の出荷を始める予定。その狙いについて、山崎高嗣社長は「ミネラルキャストは加工レスなので、加工の設備もいらなくなる。大量に排出する切り粉も一切なくなる」と説明する。

同社は内製化と採用拡大の試験研究を数年前から実施。その成果をもとに現在、部品の量産に向けた試作を進めている。

※自社作成

ミネラルキャストは振動減衰性能が鋳鉄と比べて約10倍高く、熱伝導率は鋳鉄の約25分の1と低い。工作機械の構造体に要求される振動減衰性と熱安定性のいずれにも優れている。だが、日本ではメーカーが限られる上、海外からの輸送費を含めた調達コストが鋳物より割高で日本の工作機械メーカーでの採用はほとんどなかった。

しかし、鋳物部品の調達リスクの高まりのほか、環境配慮の重要性が導入拡大に踏み切らせた。ミネラルキャストは鋳物のような高温溶融処理が不要で、製造時のエネルギー消費量を大幅削減できる。同社ではミネラルキャストへの置き換えで、製造工程におけるCO2排出量を8割減らせると試算している。

※自社作成

ネックは材料費が鋳物より高くなる点だが、加工設備や加工後の処理も減らせる利点を追求し「トータルコストを減らしたい」(山崎社長)という。

国内の鋳造会社と生産量は減少傾向にあり、国産鋳物部品の確保は困難になってきている。鋳物の調達量が自動車業界などに比べ少ない工作機械業界では、獲得競争で競り負けることへの警戒感が強い。調達リスクを下げるための試行錯誤は当面続きそうだ。

ミネラルキャスト導入、欧州が先行 日本企業も参入

工作機械におけるミネラルキャストの導入では欧州メーカーが先行する。5軸マシニングセンター(MC)の高級機で知られる独ハームレは1996年の5軸MC初号モデルから構造体にミネラルキャストを採用した。

ハームレは「高精度の加工対象物(ワーク)を短納期で受注する試作加工会社から指名買いされる」(国内販売を手がける愛知産業〈東京都品川区〉の営業幹部)という5軸MCの専業だ。その構造体はミネラルキャストに加え、一体成型、左右対称の設計、安定性の高いガントリー型にしたことなどで高剛性、精度、加工効率を高めているという。16年以降、新工場でミネラルキャストを製造し、技術の高度化と安定納期の確保を進めている。日本では04年から愛知産業が販売し、これまで120台ほどを納入している。

工作機械業界でのミネラルキャスト導入の広がりを商機と捉え、その市場に参入する企業も生まれている。マンホール用の鋳鉄製蓋(ふた)などのメーカー、日之出水道機器(福岡市博多区)は、土木やポリマーコンクリートの研究開発実績をベースにミネラルキャストを事業化した。4月に日本の工作機械のメーカーに土台やコラムなどとして提供を始めた。鋳物の代替ではなく性能やニーズに合わせて提案していく。求められる特徴が減衰性ならミネラルキャストを、剛性なら鋳鉄を提案。両方の場合は両者の組み合わせを用意する。

製造ラインは栃木工場(栃木県大田原市)に構築した。年間売り上げ30億円を目指す。


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日刊工業新聞 2024年04月23日

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