「デジタルツイン」実証…東芝が最新の研究開発棟で始めたユニークな試み
東芝は川崎市で建設した最新の研究開発棟を舞台に、約1000人の従業員が働きながら先進の技術を実証するユニークな試みを4月から始めた。「省エネルギー」と「セキュリティー」の二つをテーマに、館内設置のセンサーやカメラなどで得たデータから、現実世界をデジタル空間に再現する「デジタルツイン」の実証、人工知能(AI)やロボットとの連携を実現し、運用に役立てる。さまざまな実証をすることで課題を抽出し、実用化に向けた研究を加速する。(編集委員・小川淳)
1月に稼働した新しい研究開発棟は「イノベーション・パレット」。東芝の小向事業所(川崎市幸区)の敷地内に約340億円をかけて建設した。13階建てと4階建ての2棟で、延べ床面積は約7万3400平方メートル。本社の研究開発機能と半導体子会社の研究開発部門などを集約した。経営の混乱から非上場化した東芝にとり、「新棟を建てることで、いかに我々が世界にない技術で勝っていくのかを真剣に考えていることを示している」(島田太郎社長)と特別な位置付けになる。
新棟での省エネの実証では、デジタルツイン技術の活用を通じ、利用者の快適さと照明や空調などのエネルギーの削減の両立を目指す。センサーなどから取得した空間と人、エネルギーなど実世界のデータを仮想空間にリアルタイムで再現すると同時に、東芝独自のAIや最適化エンジンの活用により、仮想空間で高度な運用シミュレーションを実施する。
その結果を最新の照明や空調などの設備に反映する。各設備は遠隔から管理・調整可能で、実証で収集したデータをAIが学習し続けることで、より効果的なサービスへと進化させる。
東芝研究開発センター情報通信プラットフォーム研究所の斉藤健シニアフェローはオフィス空間を「“生きたショーケース”として活用したい。ここから得られるデータは非常に貴重になる」と意義を説明する。
一方、セキュリティーの実証ではセコムの警備ロボットを導入し、各所に設置したカメラから得た映像のAIによる監視と合わせ、警備の自動・省人化と安全・安心の両立を目指す。
不審者などを映像からAIが迅速に検出したり、ロボットがエレベーターやセキュリティーゲートと連携して建物の隅々まで巡回したりするなど、人手不足が深刻な警備業界へのソリューションを模索する。同研究所の佐方連フェローは「これまで人には難しかった警備を実現していく」と期待する。
新棟では「まずは1年単位でしっかりと実証を進めていく」(斉藤シニアフェロー)計画で、省エネとセキュリティーの実証データを蓄積する。また、パートナー企業などとも共創を進める。その上で、工場やプラント、倉庫などさまざまな分野への応用・実装を検討し、新たな事業として育てる計画だ。