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「工作機械」受注、けん引役はどこか…期待される市場の火付け役

「工作機械」受注、けん引役はどこか…期待される市場の火付け役

来年以降は工作機械需要の拡大が期待される(イメージ)

今年受注見通し、底堅く前年並み

2024年の工作機械市場は前年並みの受注水準をうかがう展開となりそうだ。日本工作機械工業会(日工会)は24年の受注額が23年比0・9%増の1兆5000億円と見通す。景気が減速する中国市場の先行きや、半導体の回復需要をどう織り込むかで見方が分かれる。足元では受注残が高水準で推移するが、キャンセルはほぼ見られないという。底堅い需要に支えられながら受注のけん引役を探る動きが続きそうだ。(西沢亮)

中国市場 不動産不況、先行き読めず

「1番低いのが1兆4000億円、1番高い方は1兆6000億円程度との見通しが示された」。日工会の市場調査委員会は24年の工作機械の受注額を1兆4000億―1兆6000億円程度と推定。稲葉善治日工会会長(ファナック会長)はこうした分析結果などを勘案し、最終的に1兆5000億円を見通すことに決めたと経緯を明らかにした。

その受注見通しで2000億円の幅が生まれた要因として、外需の約3割を占める中国市場をどう読むかがあったと見られる。不動産不況の影響を受ける中国では設備投資が低迷。日工会の統計でも中国向けの受注額は24年1月まで13カ月連続で前年を割り込んだ。ただ受注額ベースでは23年7月の177億円を底に200億円前後で推移し、けん引役を探る展開が続く。

市場の火付け役として期待されるのが中国政府の景気刺激策だ。芝浦機械の坂元繁友社長は「地方の資金繰りが国の政策でうまく補填できれば上がってくるし、うまくいかなければちょっと厳しい」とし、日本の国会に相当する3月の全国人民代表大会(全人代)の動向を注視する。

景気と共に中国で懸念されるのが製造業で広がる過剰な生産能力。例えば23年の中国自動車生産台数は前年比11・6%増の3016万台。うち電気自動車(EV)など新エネルギー車(NEV)は同35・8%増の958万台とけん引した。

一方、日系工作機械メーカーが中心の日工会の統計では23年の中国の自動車向けの受注額は同28%減と低迷し、ある工作機械幹部は「EVメーカーの淘汰(とうた)が進んでいる」と分析する。牧野フライス製作所の宮崎正太郎社長は「中国はまだ全体的に良くないが、一部の顧客で挽回が始まっている」とし、NEV関連での堅調な需要を見込む。

稲葉会長は中国市場について「不況がどこまで続くか見通せず堅く見ている」と23年並みの受注水準を予想。一方、航空宇宙や医療関係などで投資が続く欧米の受注は「堅調にいくと思っている」との認識を示した。

半導体関連 来年にも需要のピーク

受注動向で注目されるのが半導体関連の需要だ。稲葉会長は「半導体需要の増加で24年後半には工作機械の新たな需要が見込まれる」と期待する。DMG森精機の森雅彦社長も「24年は後半にかけて半導体関係が戻ってくる」とし、半導体製造装置部品などで加工需要を見込む。また同社は強みを持つ半導体製造工程の上流だけでなく、「下流でも事業を広げていきたい」(森社長)と意欲を示す。

日本半導体製造装置協会(SEAJ)は、24年度の日本製半導体製造装置の販売額が前年度比27%増の4兆348億円になると予測する。別の工作機械幹部は「半導体需要の増加時期が24年下期の後半にずれ込むと、23年並みの受注の確保は難しくなる」と見る。ある機械要素部品幹部は「半導体需要が工作機械の新規受注に波及するには9カ月から1年ほどかかると見ており、25年が受注の中心になる」と予想する。

一方、オークマの家城淳社長は「25、26年に半導体製造、自動車、航空機などの需要が盛り上がり次の受注のピークが来る」と予測。直近では22年の工作機械の受注額が1兆7596億円と過去2番目の水準となりピークを迎えた。家城社長は24年の受注環境を「中庸」と表現し、過去の受注動向を見ても「23、24年に1兆5000億円前後の受注額で下げ止まればすごいこと」と受け止める。

受注残高 高水準続く大型機堅調・増産準備

他方、24年に受注の底割れを心配する声はあまり聞かれない。その背景には受注残の動向もありそうだ。日工会の統計によると受注残高は22年10月に9201億円と過去最高を更新した。22年はコロナ禍に伴うペントアップ(先送り)需要もあり受注が好調に推移。半導体などの部品不足で工作機械の生産が思うように伸びず、納期を懸念する顧客の前倒し発注も重なった。

23年には受注が調整局面に入ったほか、部品不足で長期化していた工作機械の納期も平常時に近づき、受注残高は23年12月に7858億円まで低減した。一方、こうした前倒し発注が起きると、顧客が同じ注文を複数の工作機械メーカーに依頼し、受注が膨らむケースもあるという。ただ足元では受注残に対するキャンセルがほとんど起きておらず、稲葉会長は「現状の受注残は実際の設備投資計画に基づく発注と見ており、市場が非常に底堅いことを意味している」との認識を示す。

11月には日本国際工作機械見本市(JIMTOF)が開かれる(22年のDMG森精機のブース)

また現状の受注残高は高水準が続いているとの見方もある。23年末まで過去10年間の受注残高の平均は6678億円。業界関係者からは「6500億円前後が従来の受注残高の適正水準ではないか」との声も聞かれる。

こうした背景に加工対象物(ワーク)の複雑化や大型化が考えられる。例えば半導体では生産性向上を目的としたウエハーの拡大指向が、半導体製造装置の大型化につながる。EVや航空機では軽量化のため複数の部品を一つにする動きがあり、「大型の5軸加工機や複合加工機の受注が増えている」(別の工作機械幹部)という。

牧野フライス製作所はコロナ禍前に600億円以下だった受注残高が、23年12月時点で大型機を中心に1000億円を超えて高止まりする。そこで同社は210億円を投じて富士吉田工場(山梨県富士吉田市)内に工作機械の新工場建設を決定し、26年1月の稼働を計画。特に大型機では納期を現状比半減し、年産能力を同最大2倍に高める方針だ。

シチズンマシナリー(長野県御代田町)も大型自動旋盤が中心のブランド「ミヤノ」を製造する北上事業所(岩手県北上市)の生産能力を25年3月に2割増強する。露崎梅夫取締役執行役員は「EVで見込まれる径の大きい四角い部品の加工需要などに対応したい」と狙いを明かす。

日本精密機械工業会の高松喜与志会長(高松機械工業会長)は「納期に何年もかかることになれば、またお客さまに迷惑がかかる。25年に向け準備をしながら頑張るのが24年ではないか」と指摘する。飛躍への備えも重要な1年となりそうだ。


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日刊工業新聞 2024年02月27日

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