ニュースイッチ

「恥の上塗りだった」永守会長の後継者問題は一応解決、ニデックが始動した集団指導体制の行方

「恥の上塗りだった」永守会長の後継者問題は一応解決、ニデックが始動した集団指導体制の行方

永守重信会長兼CEO(左)はグローバルグループ代表に、小部博志社長(右)は会長にそれぞれ就任し、岸田光哉次期社長兼CEOをサポートする(14日の社長交代会見)

ニデックにとって長年の経営課題であった永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)の後継者問題が一応の決着をみた。今春、岸田光哉次期社長兼CEO(現副社長)を核とした集団指導体制が始動する。永守氏は今後も代表権を持ち、新設のグローバルグループ代表として同社の成長の要となるM&A(合併・買収)を主導しグループの精神的支柱として引き続き経営に関与しつつ、岸田体制をサポートする。繰り返された後継者問題は今度こそ解決するのか。成長戦略の肝となる車載事業の早期再建とともに注目される。(京都・新庄悠、同・小野太雅)

M&A関連、永守氏が担当を継続

岸田氏は前職のソニー(現ソニーグループ)で生産本部長やスマートフォン事業子会社社長などを務め、赤字だったスマホ事業の再建で手腕を振るった。2022年1月にニデックへ入社。成長の柱に位置付ける電気自動車(EV)向け駆動装置「イーアクスル」を含む車載事業を任され、欧州事業改革などを進めてきた。

前職では世代交代後の事業展開も経験している。「バトンを受け取ったサラリーマン経営者世代として苦労した経験をもとに、次の世代をどのように励ましてやっていくかは常に考えている」(岸田氏)という。そうして得た知見もニデックで発揮することが期待される。

岸田氏が次期社長へ就くのを機にニデックの経営トップ人事はシステム化される。社長の任期は4年間で、その後会長に4年間就き、計8年間経営に携わるサイクルを目指す。永守氏は「創業者は幅広い業務を夜も寝ずにやってきたが、これからは分担してやらないとできない。僕と同じやり方を理解しなくていい」と、岸田氏に対して助言。「部下へ仕事を落とし込み、組織を使ってもっと大きな会社にしていく集団指導体制」(永守氏)を推奨する。同体制は初めて社長職を禅譲した日産自動車出身の吉本浩之氏の時にも挑戦したが挫折した。だが、永守氏のモットーでもある「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」ことに最適解を見いだし「できるまでやる」と決めたようだ。

「50年頑張ってきたが、最後の方は恥の上塗りだった」。永守氏は後継者問題でつまずいたここ数年をこう自嘲した。後継候補として外部からスカウトした人材はいずれも退任。永守氏は「世の中にもっと素晴らしい経営者がいて、そのうちの一人を選べばいいと思っていた。みんな逃げるのが早い」と口惜しそうに話す。

ただ、次期社長の岸田氏も外部出身。真の生え抜き社長が誕生するのは早くて4年後だ。「(岸田氏の次の社長候補として)28年には完全なプロパーが出てくる。次を担えそうな人物を早めに定めて育てていく」(永守氏)。新社長を支える副社長は現在の5人体制から、4月に北尾宜久氏、小関敏彦氏、西本達也氏の3人体制となる。大塚俊之氏は退任し、子会社社長に専念。副社長任期は1年間で毎年度改選していくという。

永守氏は買収企業の選定やPMI(経営統合作業)といったM&A関連を引き続き担う。最長4年間は代表権を継続し、新経営体制の安定性を見極めながら代表権を返上する予定。創業者依存から変革し、循環型の経営体制と強みのスピード経営を両立して、これまでのような加速度的な成長を実現できるかが今後問われる。

イーアクスル事業再建、シェアから収益性重視に転換

岸田次期社長を待ち受ける難関の一つがイーアクスル事業の再建(ニデックのイーアクスルの第2世代)

岸田氏を待ち受ける、難関の一つがイーアクスル事業の再建だ。

成長柱の一つとして、肝いりで育ててきたイーアクスル事業だが、足元では不振が続いている。EV市場減速とEVメーカーの戦略が変化する中、直近では事業戦略を従来のシェア重視から収益性重視へと転換するなど、厳しい現実に直面している。

26年3月期に全社売上高を23年3月期比約8割増の4兆円、31年3月期に同約4・5倍の10兆円を目標に掲げるニデック。このけん引役として世界的なEV化の波に乗って成長するはずだったイーアクスル事業が営業赤字に落ち込んでいる。事業立て直しに、23年3月期と24年3月期に2期連続で多額の構造改革費用を計上した。

永守氏が「当社だけでなく、競争相手も顧客(自動車メーカー)も全部赤字。こんな事業は初めてだ」と驚くほど、世界最大のEV市場である中国での異常な価格競争が背景にある。

ニデックはEV市場の立ち上がりに先行して量産投資を実行。赤字覚悟でシェアを獲得し、規模の経済性を生かしたコスト競争力で優位に立ち、「EVが急増する分水嶺(れい)」(永守氏)で、高シェア・高営業利益率を両立する予定だった。

だが、中国で需要を超えるEV供給が発生。価格を下げないとEVが売れない状況となり、その余波をEV向け部品メーカーの同社が受けている。そのため同社は戦略を転換。不採算機種の受注制限などで収益性を優先し、25年10―12月期の営業黒字化を想定する。

岸田氏は「(イーアクスル事業再建に向けた)事業戦略の短期的な方向修正は考えていない」とし、まずは営業黒字化へ全力を注ぐ。同氏は22年1月にニデックに入社してからの2年間、日本とドイツを往来。車載事業本部長として、自らイーアクスル事業の再建に当たってきた。ソニー時代に赤字だったスマホ事業の再建を実現した手腕に期待が集まる。

工作機械、成長に期待

工作機械事業は業界再編を起こす可能性がある(ニデックマシンツールの量産用内歯車研削盤「ZI20A」)

「機械事業や産業用モーター事業など、当社はポテンシャルの高い事業をたくさん抱えている。顧客との会話を通じて、各事業の成功に結びつけたい」。14日の会見で岸田氏は意気込んだ。ニデックは中長期での成長が期待される事業を複数持つ。中でも23年に事業本部を発足させた減速機、プレス機、工作機械などからなる機械事業や、普及が進みつつある人工知能(AI)サーバー向け冷却システムを成長分野に位置付ける。

特に23年、旋盤メーカーTAKISAWA(岡山市北区)への「同意なき買収」提案を成功させ、新たなM&Aモデルを示したことでも話題になった工作機械事業は、複数メーカーが乱立する工作機械業界に再編の波を引き起こす可能性がある。

手の内にある事業・技術を強化し、そこにないものを、M&Aによって身につける経営スタイルで成長を遂げてきたニデック。その「ニデックの原点に立ち返り、リジェネレーション(再生)、第二創業を成し遂げる」と岸田氏は話す。注力分野で果実を刈り取れるのか。イーアクスル事業の再建以外でも采配が試される。

日刊工業新聞 2024年02月16日

編集部のおすすめ