受注は年平均5%超伸びの試算も…工作機械メーカーが加速するそれぞれの成長戦略
工作機械各社が中長期で成長戦略を加速している。人手不足や脱炭素、変種変量生産への対応など、多様化する課題を解決する製品や技術の開発に力を入れる。一方、高まる需要に対応するため事業基盤の整備にも投資を振り向ける。工作機械の受注は2030年まで年平均5%を超えて伸びるとの試算もある。不透明な市場環境が見込まれる中、戦略を着実に進める実行力が問われそうだ。(西沢亮)
自動化システム/工程集約機・ロボ連携 DMG森精機 DX・GX推進
23年9月に独ハノーバーで開かれた世界最大級の工作機械見本市「EMOハノーバー2023」。DMG森精機は約9000平方メートルのホールを貸し切り、課題解決策「マシニング・トランスフォーメーション(MX)」を訴えた。
同社では複数工程にまたがる加工対象物(ワーク)の生産を、複雑な加工が可能な5軸加工機や複合加工機で集約。ロボットなどを組み合わせて自動化したシステムをデジタル変革(DX)により効率化し、工程全体の環境負荷を下げてグリーン・トランスフォーメーション(GX)につなげる一連の取り組みをMXと位置付ける。
ブースではMXに貢献する39台の工作機械と21もの自動化システムを展示。重切削加工から高速加工まで対応できる主軸を採用し、最適な工程集約を支援する5軸制御横型マシニングセンター(MC)「INHシリーズ」などの最新機種には多くの関心が集まった。
MXへの引き合いは高まり、23年1―9月期の機械1台当たりの平均受注単価も5950万円(22年12月期平均は4980万円)と伸びた。森雅彦社長は「工程集約ができる同時5軸加工機や複合加工機が売れており、そこに自動化が付いてDXやGXに貢献している」と手応えを得る。
EVの変化に対応/受注残を減少へ 柔軟な生産体制構築
脱炭素の潮流で販売が拡大する電気自動車(EV)では、エンジン車とは異なるモノづくりが試される。こうした動きに呼応するようにシチズンマシナリー(長野県御代田町)は、自動旋盤の「ミヤノ」ブランドで旗艦モデル「ABXシリーズ」を刷新。加工径が最大80ミリメートルの機種を追加して24年10月に投入する。
露崎梅夫取締役執行役員は、EV電池の冷却機構などで大きな径の継ぎ手関連の部品で切削やミーリング加工の引き合いがあることを指摘。「こうした四角いEV部品をMCで加工するには少し時間がかかるので旋盤でやりたいといった要望が出てきた。ミヤノブランドの需要はまだ増える」と見る。
EVでは複数の構造部品をアルミニウム鋳造で一体成形する「ギガキャスト」を採用する動きも広がる。そのギガキャスト向けに、ソディックは日本精機(名古屋市守山区)と、大型の金型部品「入れ子」を金属積層造形(AM)する技術を開発。450ミリメートル角サイズの大型入れ子のAM技術を確立し、24年春にも実用化する。AMによる金型は冷却効果の高い配水管の設計などにより、アルミ鋳造部品の生産性向上によるコスト削減を実現する。ソディック幹部は、ギガキャスト向け金型への採用を機に「金属AM機事業の拡大につなげたい」と話す。
23年3月期に売上高と受注高が過去最高を更新した牧野フライス製作所。ただコロナ禍前は600億円以下だった受注残が、23年3月末時点で大型機を中心に1000億円を超えて高止まりする。
高まる需要に対応するため、同社は富士吉田工場(山梨県富士吉田市)内に2棟の建屋の新設を決めた。投資額は210億円。26年1月に稼働する。1棟は工作機械の組立工場で、大型から小型まであらゆるサイズのMCや放電加工機などを生産する。建屋中央には配電盤などの大型機向けのユニット部品を組み立てる補助ラインも導入する。
同工場では現在、中小型機向けのユニット部品を生産している。一連の投資で工作機械の部品から組み立てまでの一貫生産体制を構築する。大型機では納期を現状比半減し、年産能力を同最大2倍に引き上げる。宮崎正太郎社長は、工作機械は将来の受注を予想することは難しい点を踏まえて「あらゆる機種に対応できる柔軟な生産体制を築くことで競争力を確保したい」と先を見据える。
需要増に備え工場拡張
大型機の需要拡大を見越して、シチズンマシナリーも25年3月をめどに北上事業所(岩手県北上市)の生産能力を従来比最大2割増強する。約20億円を投じて倉庫・事務棟を増設し、既存の工場から倉庫と事務機能を移転。空いたスペースをミヤノブランドの生産拡大に活用する。MXを加速するDMG森精機は25年春にも奈良事業所(奈良県大和郡山市)で、工作機械にローダーやロボットなどの周辺装置を組み合わせた自動化システムの組立工場を現状比約4倍に拡張する。既存の工場には最長80メートルの自動化システムを組み立てられる4本の生産ラインがあり、拡張で生産能力を大幅に高める。
中国ではニデックグループのニデックマシンツール(滋賀県栗東市)が、24年に浙江省平湖市で新工場の稼働を予定する。23年には同市のレンタル工場で歯車工作機械のホブ盤の生産を開始した。これまで顧客の要望に応じて設計する高付加価値製品を販売してきたが、量産モデルを初めて開発した。新工場では、ニデックオーケーケー(兵庫県伊丹市)のMCの生産も計画する。
ニデックは23年11月にTOB(株式公開買い付け)でTAKISAWAを買収し、旋盤を品ぞろえに加えた。ニデックの永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は「大まかな工作機械は全部そろえた」とした上で、「あと少し行く場所がある。それも買収などによってそろえる」と引き続きM&A(合併・買収)に意欲を示す。TAKISAWAの買収で工作機械事業の売上高は1000億円規模に拡大するが、26年3月期に同事業で売上高2600億円を目指す。
工作機械受注 26年に2兆円超え
日本工作機械工業会(日工会)がまとめた工作機械の受注額は23年11月まで11カ月連続で前年同月を下回った。ただ受注の直近ピークだった22年3月から1年半以上が経過し、受注水準の調整が進む。野村証券の前川健太郎アナリストらは23年12月のリポートで「工作機械受注の絶対額でのボトムは23年10―12月期と見ており、24年以降の受注は緩やかなペースながらも回復局面に入る」と見る。
一方、中長期では持続的な成長が見込まれる。日工会が22年にまとめた「工作機械産業ビジョン2030」によると会員企業を対象とした受注総額が、マクロ経済の動向などから30年までの9年間で年平均5・3%成長すると試算。国内外で受注が順調に伸びれば26年に2兆円を超え、30年に2兆4750億円に達すると予測する。
【関連記事】 工作機械の再編劇、次はどこで起こる?