「肥満症」治療に新たな選択肢、30年ぶり新薬の効果
肥満症が世界的な健康課題となり、治療薬の需要が拡大傾向にある中、日本で約30年ぶりに肥満症の新薬が発売された。国内には約1600万人が肥満症を抱えていると言われており、治療の新たな選択肢として期待が高まる一方で、美容を目的とした適応外の使用の懸念も指摘されている。本当に薬が必要な患者に届けられるよう、適正使用の呼びかけが重要となる。(安川結野)
デンマークの製薬大手ノボノルディスクファーマの日本法人(東京都千代田区、キャスパー・ブッカ・マイルヴァン社長)は、肥満症の治療薬「ウゴービ」を日本で発売した。体内のホルモン「GLP―1」の受容体に作用してインスリンの分泌を促す「GLP―1受容体作動薬」と呼ばれ、皮下注射で投与することで食欲を抑制し、体重減少を助ける。マイルヴァン社長は「肥満症は心血管疾患や深刻な慢性疾患に関連する。責任感を持って治療薬を提供していきたい」と強調する。
海外では、米製薬大手イーライリリーの肥満症治療薬「ゼップバウンド」が米国で2023年11月に承認を取得。販売開始後、数週間で1億7500万ドル以上を売り上げた。ウゴービもすでに米国や英国、デンマークなどで販売しており、マイルヴァン社長は「5年間で8000億円規模をかけて原薬の製造能力を強化する」とし、拡大する需要に対応する考えを示す。
肥満症はさまざまな慢性疾患と関連することに加え、患者は社会的な偏見にもさらされる。世界保健機関(WHO)が肥満の人数増加を止める目標を掲げるなど対策を急ぐが、世界では約8億1300万人が肥満を抱えており、35年には20億人にのぼると推定される。
こうした中、運動療法と食事療法に薬物療法が加わることで高い治療効果が期待され、肥満症による健康リスクの改善や生活の質(QOL)向上につながる。アンメット・メディカル・ニーズ(未充足の医療ニーズ)が高く、製薬会社が肥満症の治療薬の開発・販売に力を入れる一方で、懸念されるのが適応外での使用だ。
GLP―1受容体作動薬は国内では2型糖尿病治療薬として使われているが、これまでもダイエットなどを目的とした適応外の使用が問題視されていた。ノボノルディスクファーマの清水真理子本部長は「ウゴービに限らず適応外の使用があることは真摯(しんし)に受け止めている」とした上で、「ウゴービの適正使用を理解し、協力してもらえる医療用医薬品卸販売業者を通じて医療機関に届けていく」と強調する。
肥満症は深刻な慢性疾患と関連するため、適切な治療が求められる。それだけに、ウゴービの発売は患者にとって治療の新たな選択肢となり、期待も大きい。必要とする患者に薬が届けられるためには、製薬企業による取り組みに加え、適応外での使用をしないよう情報発信や啓発など実効性の高い対策も求められる。