「AIパソコン」は消費者の購買意欲を喚起できるか
パソコン(PC)メーカーが生成人工知能(AI)の普及をにらんだ事業活動を加速している。AIの推論に使うNPU(ニューラルネットワーク・プロセッシング・ユニット)を搭載した製品を相次ぎ発売。PCだけでAIが使える「AIPC」により映像や画像の生成がしやすくなり、制作者からの需要が見込める。ただ消費者の購買意欲を喚起するには、用途の多様化も必要だ。PC市場を盛り上げられるかが試される。(阿部未沙子)
「PC市場に良い影響を与えるだろう」。日本HP(東京都港区)の岡戸伸樹社長は、AIPCについてこう語る。同社はNPU内蔵の米インテル製ウルトラコアプロセッサーを搭載した「スペクトル x360シリーズ」を投入した。
LGエレクトロニクス・ジャパン(東京都中央区)も「LG gramシリーズ」にNPUを搭載した製品を追加し、発売。また日本エイサー(東京都新宿区)もNPU搭載の製品を発売済み。同社マーコム&マーケティング部の安藤康夫氏は「(消費者がAIPCに)興味を持ってもらえるとうれしい」と期待を示す。
各メーカーが搭載したプロセッサーは、AIの推論を低消費電力で行える。インテル(東京都千代田区)の上野晶子執行役員マーケティング本部長は「NPUを搭載するPCがAIPCと呼ばれがちだが、中央演算処理装置(CPU)、画像処理半導体(GPU)、NPUの三つのプロセッサーが一緒に働くことで力を発揮できる」と解説する。
インテルだけでなく米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)も「Ryzen(ライゼン)」という名称でAIの推論を支援するCPUを展開。また米クアルコムがAI処理にたけた半導体の開発に注力しているなど、半導体各社もAIPCを商機と捉えているようだ。
AIPCの特徴について、MM総研(東京都港区)の中村成希取締役研究部長は「生成AIを使うために必要な演算を(PCの)デスクトップで処理できる」と説明。AIを用いた画像の生成では料金が発生する場合が多いが、PC内で処理ができることで、画像生成にかかる費用を減らせる点も利点だ。
ただ、AIPCが広く浸透するかは未知数といえる。MM総研の中村取締役は「画像や映像生成の領域でAIPCは使われるのではないか」と推測しつつも「一般的な活用例があまり出てきていない」と指摘する。
高性能なCPUなどの搭載により、PC価格が上昇して顧客の購買意欲をそぐ可能性もある。日本HPの岡戸社長は「価格は享受できるメリットなど、さまざまな要因で決まる。付加価値を高めることで単価も上がるのではないか」とみる。
他方、インテルの上野執行役員は「AIPCを何のために、どのように使うかも大事。ソフトウエアやアプリケーションを構築できる開発者らとの連携も必要」と語る。PCメーカーは多面的な取り組みが求められる。