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室蘭工大の論文引用率急伸、トップクラスの実績につなげた秘訣

室蘭工大の論文引用率急伸、トップクラスの実績につなげた秘訣

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年俸制で流出防ぐ

地方の理工系単科大学は地域の産業界から頼りにされる半面、学術研究で存在感を出しにくい傾向がある。しかし室蘭工業大学はコンピューター科学分野で業績を急伸させ近年、旧7帝大の平均を上回る論文引用率をキープしている。歴史の浅い分野で若手・中堅研究者のやる気を引き出し、トップクラスの実績につなげた方策について空閑良寿学長に解説してもらった。(編集委員・山本佳世子)

室蘭工大が注目するのは、学術論文出版社のエルゼビアによる研究業績分析ツール「SciVal」(サイバル)のデータだ。コンピューター科学分野で、被引用数の多い「トップ10%論文」の総論文数に対する割合をみると、旧7帝大平均は9%ほどで変化がない。対して同大は2014年を機に躍進し、ここ数年は約15%を維持する。同大のコンピュータ科学センターなどで活動する若手・中堅研究者らがけん引している。

※自社作成

施策で最も効果があったとみるのは助教から准教授、准教授から教授など、上位職に就くことで給与が上がる形の年俸制だ。伝統的な年齢給型では、実力を付けた中堅研究者が他大学に転出しがちだった。「成果を上げれば厚遇する、という実力主義の徹底で流出を防げた」と空閑学長は振り返る。年俸制は現在、全教員の半分ほどで実施される。

昇進の根拠となる個人の業績の“見える化”も大きい。以前は公表までに2年程度かかったが、年度明けの早い時期に前倒しした。「『教員約200人の名前、顔、業績はすべて頭に入っているぞ』と口にして」(空閑学長)構成員に適度な緊張感を持たせてきた。

全学を把握できる規模感は一般に単科大学の強みだ。社会から求められる変革に対し意見がまとまりやすく、実行に移すフットワークも軽い。自由度が高い同大の特徴を生かし、新興のコンピューター科学と、機械や建築など伝統的な分野の連携も多いという。24年度には大学院で、情報と各専門分野を掛け合わせた共創情報学コースをスタートする。

空閑学長は若手研究者時代の原点が理化学研究所にあり、研究力にこだわりがある。一方で、教育や地域貢献など各教員それぞれの得意な軸で頑張ってもらう現実的な戦略へのシフトもしてきた。3月の退任まで計9年間、2回の国立大学中期目標・中期計画の策定に携わり、同大の一つのカタチを完成させたといえそうだ。

日刊工業新聞 2024年02月01日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
空閑学長はかつて、学長初任者研修で講師役の元旧帝大総長に地方大学の研究力強化を尋ねたという。答えは「何でもよいから日本一を見つけろ」というものだった。当時から分野を絞っていた訳ではないが、地方大学の研究力強化の策を地道に重ねる中で、旧帝大などの層の厚い伝統分野とは異なる領域で、結果的に研究者が育ってきた。「あの大学なら、研究はコレ」と、自他共に挙げる領域を構築することは、どれも中途半端なケースに比べて、大学の顔が明確になるという点で効果があると感じた。

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