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大気中のCO2回収…合成燃料の原料になるか、ENEOSが実用化へ

大気中のCO2回収…合成燃料の原料になるか、ENEOSが実用化へ

導入したDAC装置と高野マネージャー

ENEOSは大気中の二酸化炭素(CO2)を回収する技術の実証試験を始めた。再生可能エネルギー由来の水素とCO2を使って製造する「合成燃料」の実用化に向けて、安価で大量の原料CO2を調達するのが目的。今後1年程度をかけて、合成燃料の原料として使える品質・コストかどうかを検証する。(根本英幸)

合成燃料は水素とCO2、それに触媒を用いた合成反応により粗油を精製し、そこから石油化学製品の原料となるナフサやガソリン、ジェット燃料、軽油などに変換する。既存の自動車や航空機、さらにはインフラ設備をそのまま活用でき、低コストに脱炭素化できる点が強みだ。液体燃料であるため、長期備蓄や輸送が簡単というメリットもある。

今回の実証は、CO2調達の有効性を検証するのが目的。脱炭素社会に向けたCO2の削減は最重要課題で、当面は工場など産業排ガスからの回収で賄える。ただ、将来的にCO2を原料とする合成燃料や合成メタン(e―メタン)、CO2の回収・貯留(CCS)が拡大し、工場のCO2排出量が減少すれば逆にCO2が足りなくなる可能性も出てくる。

実証の一環として、スイス・チューリヒ工科大学発ベンチャーのクライムワークス製CO2回収装置「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」装置を中央技術研究所(横浜市中区)に導入した。中央技術研究所・先進技術研究所の松岡孝司所長は「ラボ(実験室)以外でDAC装置を導入するのは国内初」と話す。

DACは大気中の低濃度CO2(約0・04%)を約100%の純度で回収する。「石炭火力発電所の排ガスの300分の1という低濃度CO2を回収する難しい技術」と先進技術研究所低炭素技術グループの高野香織マネージャー。合成燃料の原料化には①高濃度で回収②回収コストが安価③経年で回収量が大きく低下しない―の3点が重要だという。

二酸化炭素と水素を合成する小型FT合成装置

CO2の回収は送風機を用いてコレクターに大気を吸い込み、フィルターにCO2を吸着。コレクター内の空気を抜いて約100度Cに加熱し、吸着したCO2を放出・回収する。その後コレクター内を常温に冷却して、再度作業を繰り返す仕組みだ。1日当たり約75キログラムのCO2を回収する。

DACは米国やカナダのベンチャーも製品化している。クライムワークス製を採用した理由について、高野マネージャーは「動作温度帯が低く、工場の廃熱利用によって将来的なコスト削減の可能性がある」と説明する。

ENEOSは今後1年かけて、回収したCO2の濃度や、高温多湿という日本固有の環境下での回収量と消費エネルギーの変化、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)など大気中の不純物による影響などを検証する見通しだ。大気中に無尽蔵にある半面、極めて濃度が低いという弱点をどこまで克服できるか、経済合理性とのせめぎ合いはしばらく続きそうだ。

日刊工業新聞 2024年02月06日

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