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住友電工・古河電工・フジクラ…米国「BABA法」で転機、電線メーカーの戦略を点検する

住友電工・古河電工・フジクラ…米国「BABA法」で転機、電線メーカーの戦略を点検する

古河電工の米子会社で生産している光ファイバー

インフラ材料など米国製義務付け

電線各社の米国事業が転機を迎える。契機となるのは、米政府が製造業の国内回帰を図る目的などで定めた「ビルドアメリカ・バイアメリカ(BABA)法」だ。米政府が資金を拠出するインフラ事業で使用される材料などが米国製であることが義務付けられ、日本の電線各社も対応を迫られる。住友電気工業、古河電気工業、フジクラの大手3社の米国事業戦略を点検する。(高島里沙、大阪・田井茂)

電線大手3社の地域別売上高比率

米バイデン政権は通信のブロードバンド(高速大容量)化を推進する意向で、高速インターネット整備に向け約425億ドル(約6兆円)を拠出すると2023年6月に発表した。これは「ブロードバンド公平性・アクセス・配備(BEAD)プログラム」と呼ばれるもので、24年半ばにも始動するとみられている。

BEADプログラムの遂行に当たって、部品調達から生産まで米国内で全ての生産工程を実施するよう規定しているのがBABA法だ。バイデン政権は23年8月に、光ファイバーケーブルや光ファイバー、非鉄金属など8種類について、米国内で生産されなければ補助金支給の対象外とする最終規則を発表した。日本の電線各社にとってもBABA法への対応が、米国事業を展開する上で大きな課題となっている。

古河電工 一貫生産体制「有利さある」

古河電工は光ファイバーケーブルを米国内で一貫生産できる。SMBC日興証券によると、電線メーカーで古河電工以外に対応可能なのは、世界最大の光ファイバーメーカーである米Corning(コーニング)のみとなっている。「電線御三家」の中でトップの住友電気工業に大きく離され、3番目のフジクラの追撃を受ける古河電工にとってBABA法は追い風。同社の森平英也社長は「一定の有利さはある」と話す。

ただ森平社長は冷静でもあり、「今のまま我々にとって都合のよい時代は続きにくい。他企業も米国内で一気通貫で生産できるインフラ投資を考える」と指摘する。実際にインドのケーブルメーカーが米国工場で設備投資を進めている。またBABA法は適用期間や今後の方針が明確に決まっているわけではなく今後、古河電工にとっての追い風が弱まる展開も想定される。

BABA法が適用されない汎用ケーブル市場で競争が激化し、価格の低下圧力が強まるとの懸念もある。そこで古河電工は高機能品や、通信ネットワークに関する課題を解決する高付加価値サービスなどの強化も急ぐ。

フジクラ 補助金見込み設備投資

フジクラの「SWR/WTC」。従来の光ケーブルより細径・軽量化を実現

BABA法の開始を見据え、準備を進めているのがフジクラだ。従来の光ケーブルより細径・軽量化を実現した「SWR/WTC」について、24年度下期に米国内で必要とされる生産工程を立ち上げる。岡田直樹社長は「BABA法に対応していきたい」と期待を込める。

現在、米子会社のアメリカフジクラ(サウスカロライナ州)は、佐倉工場(千葉県佐倉市)から輸入した光ファイバーをケーブル化する後工程を担っている。BABA法の適用には、光ファイバーを束ねる前工程を米国内で手がける必要があり、佐倉工場からの一部工程の生産移管を進める。

フジクラでは補助金の支給開始時期について6月頃には動き出すとみる。飯島和人取締役最高財務責任者(CFO)は「補助金対象となる企業規模や補助金のボリューム感を見定めている段階」と明かす。「生産量も検討中」とするが、「数億円レベルの投資になるだろう」と見込む。

住友電工 一般ケーブル需要開拓

住友電工は北米で多様な顧客向けに光ファイバーケーブルの製造・販売を強めている

住友電気工業はBABA法対応について表明していないが、北米で23年から通信会社向けなど多様な顧客向けに光ファイバーケーブルの製造・販売を強めている。

これまで主力はDC向け超多心の同ケーブルだったが、需要回復が遅れている。光通信の技術革新で、近年は細い大容量ケーブルも現れている。井上治社長は「DC向けが減っているので、超多心でない一般的なケーブル需要の開拓に努めている」と説明する。

22年11月には、車載用リチウムイオン電池のタブリードや高機能・高耐熱電線などを製造するメキシコ子会社をアグアスカリエンテス州に設立した。電気自動車(EV)市場が拡大する米国向けに、EV用リチウムイオン電池の部材になるタブリードを生産する。

米国ケーブル工場は生産能力が一杯でもあり、メキシコ工場を開設する。「米国は賃金が高く、工場を広げられない。米国では高付加価値製品、メキシコでは量産製品と分業生産になる」(井上社長)と説明する。

DC需要低迷、足元に“踊り場感”

電線業界の米国での足元の事業環境は低迷している。23年度はGAFAM(米IT大手5社)や通信キヤリアによるデータセンター(DC)需要が低迷したためだ。電線も在庫が積み上がり、電線各社の光ファイバーケーブル事業は打撃を受けている。またインフレや金利高に加え、BABA法の開始をにらんで、設備投資を控える動きもあるという。

古河電工は、北米・中南米地域のDC需要低迷の長期化も要因の一つとなり、23年4―9月期連結の売上高は前年同期比4・1%減の5031億円となり、当期損益は41億円の赤字(前年同期は63億円の黒字)に陥った。23年11月時点では「今が底との認識で、24年度に回復を見込む」(森平社長)としていたが、不透明な状況は続く。

住友電工の井上社長は「米国は22年に光ケーブルを買い過ぎたのではないか。設置工事も多くは遅れる。23年後半から戻ると期待したが、24年後半まで回復が遅れる気配にある」と指摘する。ただ、DC向けでは光通信関連に使われる電子機器やコネクターが堅調で、23年9月以降受注が増えている。それがいつケーブルの本格需要に結び付くのかが、一つの注目点となる。

一方、フジクラの飯島CFOは米国市場についてやや楽観的。「23年11月下旬以降、生成人工知能(AI)関連でGAFAMのDC投資が動き始めた」と説明し、「足元の踊り場感は近々解消するだろう」と期待する。

日刊工業新聞 2024年02月06日

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