手法・電源車統一、共通工具も…能登半島地震の送電復旧、連携の真価
3万戸以上に上った能登半島地震による停電は、15日までに約8000戸に減った。北陸電力送配電はもちろん、中部電力パワーグリッド(PG)、関西電力送配電、東京電力パワーグリッド、東北電力ネットワーク、北海道電力ネットワークの送配電5社が応援部隊を派遣し、復旧に取り組んだ結果だ。特に復旧方法や電源車仕様の統一化、共通工具の開発などは2020年に始まったばかりであり、成果が試されている。(根本英幸)
5社の応援人員は延べ約2300人。応援車両は約630台で、応急送電に必要な高圧電源車や高所作業車、建柱車、タンクローリーなどが活躍中だ。15日には九州電力送配電、四国電力送配電、中国電力ネットワークの3社が応援派遣を発表。人員95人、車両57台が加わることになる。
ただ災害復旧時の広域連携が法的に定められたのは、意外にも最近のこと。07年の中越沖地震や11年の東日本大震災、16年の熊本地震の際も応援はあったが、あくまでも自主的な協定によるもの。電気事業法により、送配電会社に災害時連携計画の作成と経済産業相への届け出が義務化されたのは20年だ。
送配電10社で構成する送配電網協議会(東京都千代田区)の坂本芳樹工務部副部長は「19年の台風15号による千葉県での長期停電がきっかけ」と語る。
台風15号の際は東電PG管内で93万戸が停電。沖縄電力を含む全社が約1万6000人(うち4000人が他社応援)体制で活動した。だが復旧方法が統一化されておらず、応援会社が復旧方法の判断に迷い、各所で混乱が発生。高圧電源車の仕様も異なるため、他社の車を扱えず、有効活用できなかった。
同協議会の鬼木嗣治工務部副部長は「10社が地域特性に応じて最適な設備仕様を追求してきた結果、各社で異なるようになった」と振り返る。
これに対し、災害時の応援作業はあくまでも「仮復旧」とし、電柱や電線、変圧器などの具体的な仮復旧工法を整理した。電源車は相互に操作できるようマニュアルを整備。新規に購入する車両は仕様を統一し、全10社が扱えるようにした。
また各社で電線径が異なり、既存の工具では電線被膜の剥ぎ取りが困難だったが、ダイスを付け替えることで10社の電線径に対応した「マルチホットハグラー」を開発した。
被害・復旧状況は社員が帰社後に集計・報告していたが、現地で携帯端末に入力し、情報を即時に反映させるシステムを開発。以前は電源車がどこにいるか把握できなかったが、全地球測位システム(GPS)を活用し、位置や稼働状況を把握できるようにした。
さらには送配電10社を3地域に分け、地域ごとに輪番制で幹事会社を回す体制を確立。例えば今回の被災会社は北陸、幹事会社は関西で、作業に忙殺される北陸の負担を軽減するため、関西が応援の調整や連絡業務などを担っている。
「あらかじめ枠組みが決まっているので、指示命令が簡潔で速く動ける」と河辺泰斗工務部副長。道路の寸断という困難な状況は続くものの、統一化・共通化に伴う早期の停電復旧に期待している。