全国1万km超の「ドローン航路」開拓…電力大手が参画、送電線網生かす
全国各地に張り巡らされた送電線網を活用し、飛行ロボット(ドローン)を目視外で自動で飛ばす航路を整備する取り組みが進んでいる。電力会社の送電線の点検作業だけでなく、将来的には物流など他産業にも使ってもらうことを狙う。すでに埼玉・秩父エリアを起点に約150キロメートルを整備。2024年度は関東と中国地方で約2000キロメートルの実装を予定しており、27年度までに全国で1万キロメートル超の航路開拓を目指す。(根本英幸)
有人機との接触リスク低減12月上旬、東京都日野市の東京電力総合研修センターで、ドローンによる自動飛行のデモンストレーションが行われた。同日開催された東京電力パワーグリッド(PG)の「全社技術技能競技大会」のドローン競技会場となった架空送電実習場に、送電網点検用の小型機と運搬用の中型機が登場。実物大の鉄塔と送電線近くを、2機のドローンが華麗に空を舞った。
「送電線の近くは接触リスクを回避するため、ヘリコプターや飛行機は近づかない。航空法でも150メートル以上離れて飛ぶことが決められている」。東電PG出身で、ドローン航路の整備に取り組むグリッドスカイウェイ有限責任事業組合(GSW、東京都港区)の紙本斉士(ただひと)最高経営責任者(CEO)は、送電線近くにドローン航路を整備するメリットを強調する。
航空法では地表150メートル以上は有人航空機の空域、それ以下の低空は無人飛行機の空域と定め、さらに有人飛行機は送電線の鉄塔から150メートル以上、離れて飛行することが求められている。送電線に引っかかり、墜落するヘリコプター事故が相次いだためだ。逆に言えば、送電線の周辺は有人飛行機との接触リスクが低く、極めて安全な航路を設定できるというわけである。
「目視外」レベル3以上
無人飛行機の飛行形態は、目視内での操縦飛行(レベル1)、目視内の自動・自律飛行(同2)、無人地帯の目視外飛行(同3)、有人地帯の目視外飛行(同4)の4段階に分かれる。レベル1は空撮や橋梁点検、レベル2は農薬散布や土木測量で実現しており、レベル3は日本郵便が福島県の郵便局間で実施する。GSWが目指すのはレベル3以上の形態だ。
例えば災害時の対応として、鉄塔や電柱の損壊を把握する場合、現在は手動操縦による目視の範囲内に限られる。だが遠隔地にある設備の状況を把握するには、手動から自動操縦への移行が不可欠。目視内も目視外の遠隔地も自動で操縦するドローンシステムの構築が重要なのである。
ドローン航路を構築するメリットは大きい。例えば山間部にある2基の鉄塔を点検する場合。従来は2人で車両移動し、登山後、鉄塔に昇って点検して下山。さらに2基目の点検のため、登山・昇塔・下山・車両移動を繰り返していた。
これに対し、ドローンを使えば、1人で山の麓から自動で飛行させ、点検できる。東電PGが現場実証で確認したところ、生産性は約5倍向上したという。山や鉄塔を昇る必要がなくなり、災害リスクが激減するほか、現場社員の高齢化・人手不足にも対応する。
具体的な航路は、高さが30メートル、幅は30―50メートルという空間が基本。鉄塔の頂点や送電線の上空5メートルから35メートルまでの空間を飛行するイメージだ。鉄塔そのものを点検する必要もあり、4本の脚に沿って降下する航路も設ける。
物流など点検以外の用途開拓
東電PGは元々、本業として鉄塔や送電線周辺の地表面測量データや風の地形増速データを持ち、これらを活用できる強みがある。実際、全地球測位システム(GPS)とコンピューターで計算しながら航路を設定していくが、150キロメートル程度の航路なら1週間で設定できるという。
ドローンの運航について「初心者でも操作できるようにした」と紙本氏。タブレット端末を用いて、飛ばしたい機体を選択、飛行区間を設定し、飛行開始を指示するという3ステップで簡単に自動飛行を実現する。またドローンで撮影された映像を後から確認する際、「どの設備をどの角度から撮影した映像か」が直感的に判別できるようにした。
GSWは20年3月に東電PG、NTTデータ、日立製作所の3社で設立。同6月に中国電力ネットワークが加わった。さらに23年9月にはJR東日本、アジア航測、北海道電力ネットワーク、中部電力パワーグリッド、北陸電力送配電、関西電力送配電、四国電力送配電、九州電力送配電、沖縄電力の9社が出資・参画して、合計13社体制となった。
現在は秩父エリアで約150キロメートルの航路を構築し、24年からの送電網の点検に向けて、現場保守要員と具体的な準備を進めている段階だ。今後はドローン航路の全国共通仕様を策定し、インフラ企業間の相互連携や迅速な設備復旧、機体などの大量調達によるコスト削減を狙う。
「まずは送電線の点検作業から始め、ドローン航路の実装と運用実績をつくることが大切だ」と紙本氏。その上で「将来的には運輸業をはじめ、我々が想定していない活用が見えてくるのではないか」と期待する。