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日本製鉄のUSスチール買収は課題山積み、世界的再編の契機になる観測も

日本製鉄のUSスチール買収は課題山積み、世界的再編の契機になる観測も

神鋼とUSスチールの合弁、米プロテック・コーティングのハイテン工場。日鉄のUSスチール買収で、位置付けが注目される

日本製鉄は米USスチールの買収について、今秋には完了させる考えだ。ただ労働者保護を掲げる米バイデン政権の承認や、全米鉄鋼労働組合(USW)との協議など課題は山積で、橋本英二社長らの交渉力が注目される。一方、今回の買収案件の余波で神戸製鋼所とUSスチールの合弁事業や、日鉄と欧アルセロール・ミタルの協業の行方にも関心が集まる。新たな世界的再編の契機になるとの観測もある。(編集委員・山中久仁昭)

日鉄は2023年12月、約2兆円を投じてUSスチールを100%子会社にすると公表した。国名を背負う名称が示す通り、ともに歴史は100年超に及ぶ。日鉄は鋼材の内需が先細りする中で底堅い北米市場に活路を見いだし、連携して世界の脱炭素化と製品の高付加価値化をリードする方針だ。

日鉄の橋本社長は「中国から北米への鉄鋼需要の戦略的シフトがある。買収は経済安全保障を背景にした、市場ブロック化を伴う新供給網の形成という視点からのチャレンジだ」と、狙いを打ち明ける。

一方で買収には競争当局の審査や、労組との協議など高い壁が立ちはだかる。特に24年は米大統領選があり、バイデン政権がどう判断するのか見通しにくい。米国家経済会議(NEC)は「同盟国企業の買収でも、安全保障と供給網への影響の点で真剣な精査がいる」と声明を発表した。当局の審査は「1年以上かかる」との一部報道もある。

これに対し橋本社長は「日本の資金や技術を提供するし、労働協約は100%守るから米国にマイナスの話はない。丁寧に対話すれば克服できる」と実現に意欲をにじませる。SMBC日興証券の山口敦シニアアナリストはUSスチール買収について「政権の対応など不透明要因もあるが、米鋼材市場は総じて利益を得やすくなっており日鉄の中長期的な成長、相乗効果に期待したい」と語る。

国内外の関係者は状況を注視している。神戸製鋼所は、USスチールと折半出資する米プロテック・コーティング(オハイオ州)で自動車向け超高張力鋼板(超ハイテン)を生産している。高い強度と加工性は車の軽量化に資する。数年前に約440億円を投じて生産能力を増強した。

神鋼は約20年来、日鉄と相互競争力強化などで提携関係にある。日鉄のUSスチール買収が実現すれば、プロテックの位置付けが強化される可能性もある。神鋼は「買収の推移を見守りたい」と話す。

一方、日鉄がアルセロール・ミタルと組む米AM/NSカルバート(アラバマ州)は電炉を新設し「第3世代超ハイテン」に注力する。日鉄は従来の米国事業を再編し、資源をカルバートに集中させる方針を打ち出していた。

SMBC日興証券の山口シニアアナリストは「プロテックの事業に日鉄は大きく干渉しないだろうし、カルバートは日鉄が『共存可能』と説明しており、状況を注視していきたい」としている。

日刊工業新聞 2024年1月16日

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