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処理速度10倍に、大阪市で最も古い下水処理場はどう再生したか

処理速度10倍に、大阪市で最も古い下水処理場はどう再生したか

海老江下水処理場の地下にある廃水の送水管

大阪市は豪雨によって流れ込む大量の雨水に対応する海老江下水処理場(大阪市此花区)の建設を進めている。既存設備に比べて10倍の処理速度を持つ新技術を導入し、雨天時には晴天時の3倍以上の廃水を処理できる。全国の下水処理場が異常気象で頻発する豪雨に手を焼いており、国土交通省も海老江下水処理場を先行モデルに位置付ける。(編集委員・松木喬)

海老江下水処理場は繁華街の梅田から阪神電鉄で3駅目の淀川駅前にある。1940(昭15)年に運用が始まった大阪市で最も古い下水処理場だ。当時の新聞には「“世界で第三番目動く”水都の誇(り)」と見出しがある。市の担当者によると、活性汚泥法による近代的な下水処理場として世界でも3番目に古いという。

歴史ある施設だが、80年間の稼働で老朽化し、建て替えが必要となった。同時に、豪雨による大量の雨水に備え、処理能力の向上も求められる。設備を増設すると能力が上がるが、周囲には高速道路やマンションが建つため、敷地に設備を拡張する余地がなかった。

難題に直面しながらも、ほぼ完成した新しい海老江下水処理場は、コンパクトながら処理能力を高めた。4月の稼働を控えて現地で開かれた「通水式」で、国土交通省下水道部の松原誠部長は「各地の下水処理場を今の時代にふさわしい施設に変える必要がある。海老江はフルモデルチェンジであり、自慢できるモデル」と絶賛した。

高速濾過、処理速度10倍

高速濾過の仕組み。廃水が下から上方向に流れ、濾材層で汚濁物を除去。既存処理の10倍の高速処理が可能

難題を解決した技術の一つが「高速濾過」だ。大きさ7・5ミリメートル以下の「濾材」を槽に詰め、汚濁物を取り除く仕組みだ。原理はシンプルで、槽の底から廃水を流して濾材を浮かせ、密集した濾材がフィルター代わりとなって汚濁物を捕捉する。水だけが濾材を通過して槽の上部へ抜ける。逆に上方向から水を流すと汚濁物は降下して槽の底から排出される。

通常の下水処理は沈殿池で汚濁物を沈めてから廃水を微生物による処理工程(活性汚泥法)に送る。沈むのを待つため時間がかかるうえ、沈殿池の容量を確保する必要がある。

高速濾過は「1日300メートル」の速度で廃水を処理できる。これは沈殿池の10倍のスピードで、設置場所も半分で済む。しかも海老江の場合は、雨天時になると同1050メートルまでスピードアップする。

さらに海老江は高速濾過後、2工程に分けて廃水を浄化する。一つが膜分離活性汚泥法(MBR)だ。表面に微細な穴が無数にある膜(フィルター)で汚れを除去して廃水を透明にする。MBRも、通常の活性汚泥法に比べて設備が小型で済む。もう一つが、複数の生物処理を組み合わせた工程。大量の雨水が流入すると、廃水を分けて処理する運用が可能だ。

街の安全、下水が重要 先進技術の研究推進

海老江は、技術の組み合わせによって晴天時は1日7万7000トンの廃水を処理するが、雨天時には同27万6000トンまで能力アップする。下水道技術の展示会に行くほどの“下水好き”と言う大阪市の横山英幸市長は、1時間かけて最新鋭設備を見学し「下水は街の安全を守る重要なもの。市は今後も先進技術を研究していく」と決意を語った。

採用した技術の一つ、高速濾過はメタウォーターが開発した。予定も含めると45件の下水処理場が採用する。都市部に限らず、各地で豪雨対策が急務となっているためだ。

通常の下水処理場は処理能力を超える雨量に達すると、一部の廃水を十分に処理せずに放流する。豪雨が頻発しており、下水処理の能力不足が河川の水質悪化を招くようになった。一方、人口減少に直面する自治体としては、豪雨時だけを想定した下水処理場の増強は難しい。その点、高速濾過は既存の沈殿池を改造して設置できるので、コストをかけずに対策ができる。また、市町村合併や人口減少による設備の統合や縮小に合わせた導入例もある。

異常気象や社会情勢の変化、そして老朽化は、どの社会インフラにも共通する課題だ。下水以外の各インフラについても解決策となる先行モデルの登場が待たれる。

日刊工業新聞 2024年01月12日

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