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都営地下鉄がホームドア完備へ、事故大幅減で変わる総合指令所の役割

都営地下鉄がホームドア完備へ、事故大幅減で変わる総合指令所の役割

車両基地でホームドアを列車へ積み込む

東京都交通局は2月に都営地下鉄4路線の全駅でホームドアの設置を完了する。都営地下鉄では2000年の三田線を皮切りにホームドアの設置を進め、ホームからの転落による人身事故などを減らしてきた。事故の減少により、運行を監視する総合指令所の役割も変わりつつある。(高屋優理)

着実に効果 事故大幅減、22年度2件

交通局は23年11月に浅草線の西馬込駅にホームドアを設置し、全管轄駅での設置を完了した。24年2月には相互直通している京成電鉄が管轄する押上駅の設置が完了する計画で、これにより都営地下鉄の106駅全てでホームドアの設置が完了する見通しだ。

交通局では00年に三田線、13年に大江戸線、19年に新宿線での整備を完了。新宿線と浅草線では、相互直通運転を行う各社と連携し、東京五輪・パラリンピック(東京2020大会)の開催期間までに浅草線の新橋―泉岳寺間の4駅を重点駅と位置付けて整備するなど、ホームドアの整備に注力してきた。

※自社調べ

ホームドアの設置に伴い、09年度に86件あったホームからの転落件数が22年度には2件と大幅に減少。20年以降に発生しているのは浅草線のみで、ホームドアの設置は、安全性の向上に直接的な効果を発揮している。

都内にある交通局の総合指令所では、新宿線、浅草線、三田線、大江戸線の4路線の運行を統合監視している。総合指令所で列車制御装置や信号通信設備を監視する信号通信指令では、ホームドアの監視も担う。全線のホームドアの監視を総合指令所で行うのは珍しく、都営地下鉄の特徴の一つとなっている。

ホームドアの遠隔監視が実現する背景には、独自の無線通信システムがある。三田線、大江戸線、新宿線の3路線は、車両側にホームドアを開けるための機器を設置しており、編成車両数や車両ドア数、ドアの開閉状況などの情報を無線で通信することで、ドアの開閉を連動している。

異なる車両対応 QRコードで検知

一方、浅草線は相互直通運転で、複数の鉄道事業者が乗り入れ、他社の車両も運行していることから、機器の設置が難しかった。このため交通局では、デンソーウェーブ(愛知県阿久比町)と共同で、車両側の機器がなくてもホームドアの開閉連動ができる2次元コード「QRコード」を活用したシステムを開発。QRコードを車両のドアに貼り、ホーム上のカメラで読み取ることで編成車両数や車両ドア数などの情報やQRコードの動きを検知し、車両ドアの開閉に合わせてホームドアを開閉する。交通局ではQRコードを用いたホームドア開閉連動技術の特許を取得しているが、他社のホームドア整備の拡大につながるように、特許をオープンにしている。

車両ドアにのQRコードをホーム上のカメラが捉え、車両やドア数に応じたホームドアの開閉を行う(昨年12月26日=人形町駅)
車両ドアにの窓に貼られたQRコード(昨年12月26日、人形町駅で撮影)

浅草線のホームドアの設置工事では世界的な半導体不足の影響を受け、製造が最大で10カ月遅れるなど、工程全体で遅れが出た。だが、ホームドア設置に必須となるホームの補強工事などを前倒しで進めたほか、設置後の動作確認手順の見直しや複数駅での同時施工、列車を使用してホームドアを搬入するなど工夫し、工程を大幅に圧縮。遅れを最小限にとどめた。

複雑な運行管理 事故遅延対策は困難、乗り入れ相手と連携

都営地下鉄4路線の運行を監視する東京都交通局総合指令所

ホームドアの整備により事故の件数は激減している一方で、相互乗り入れの拡大により、影響を受けるのは自社の運行区間だけではなくなっている。都営地下鉄は新宿線が京王電鉄、浅草線が東京メトロ京浜急行電鉄、京成電鉄、北総鉄道、芝山鉄道と相互に乗り入れており、三田線は23年3月から東京メトロ、東京急行電鉄に加え東急新横浜線を介して相模鉄道と直通運転を開始。ネットワークが広がり、運輸指令の作業は複雑さを増している。

竹下克総合指令所長は「地下鉄は踏切がなく、屋外の区間もわずかで天候の影響を受けない」と話す。地下鉄は遅延などが起こりにくい構造で、ホームドアの整備完了によりさらに事故が減っている。だが、相互直通運転の拡大により、自社の運行区間以外でのトラブルが影響することが増えているのが現状だ。総合指令所で運輸指令を担当する田口清課長代理は「事故で渋滞が発生したときの対応は、会社ごとに考え方が違うので、意見のすりあわせが大事になってくる」と、相互直通運転ならではの運行管理の難しさを指摘する。総合指令所では他社の運行状態をモニターで監視できるようになっており、「状況に応じて切り替えながら対応している」(竹下所長)と、相互乗り入れ区間も含めたマネジメントが重要になっている。

都営地下鉄では現状、さらなる相互乗り入れの計画はないが、大江戸線の延伸計画があるほか、東京メトロや周辺の私鉄の延伸計画などがいくつかあり、ネットワークの拡大は続くとみられる。「都営地下鉄は相互乗り入れしていなくても、乗り入れている鉄道会社がその先で相互乗り入れしているケースもあり、かなり遠いところから影響を受ける」(田口課長代理)と話す。

相互直通運転により、列車同士がつながっていく中で、東京都交通局はホームドアの整備やシステムの開発などで工夫を進めながら、安全性と利便性を担保してきた。今後はこうしたハード面に加え、鉄道会社同士の連携強化といったソフトの面がカギを握ることになりそうだ。

日刊工業新聞 2024年01月04日

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