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「パワー半導体」次世代素材で性能・コストしのぎ削る、日本企業は存在感を示せるか

「パワー半導体」次世代素材で性能・コストしのぎ削る、日本企業は存在感を示せるか

レゾナックのSiCエピウエハー

パワー半導体の次世代素材の開発・実装が加速している。大電流・高電圧化や省エネ化などのニーズを商機に、化学メーカーはウエハー素材や関連技術の開発に力を入れる。パワー半導体はモノの進化と脱炭素社会をつなぐキーデバイスとされており、材料からデバイスまで日本企業が世界でしのぎを削ってきた領域だ。次世代品でも存在感を示せるか、関連技術に熱視線が注がれている。(大川諒介)

レゾナック、SiCエピウエハー量産

パワー半導体は電源から送られた電気を制御する役割を担い、電圧・周波数の変更や電力変換を行う機能を持つ。幅広い電気製品に搭載されるが、電気自動車(EV)の普及で性能面がこれまで以上に注目されるようになった。パワー半導体の性能向上は電力損失の抑制につながり、急速充電の実現や航続距離延長などに貢献する。素材の持つ特徴から現在主流のシリコン(Si)より耐電圧特性などに優れる炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)などの次世代素材が着目された。

レゾナックは主要部材となるSiCエピタキシャルウエハーのトップシェアを握る。原料のSiC基板から手がけており、近年は独インフィニオンテクノロジーズやローム東芝デバイス&ストレージ(東京都港区)と相次ぎ長期供給契約を締結。また複数の国内大手がSiCパワー半導体の増産計画を公表するなど、中長期で旺盛な需要が期待される。

レゾナックは2023年4月の事業説明会でSiCエピウエハー事業について「5年以内に22年比で売上高5倍を目指す」(金沢博SiC最高技術責任者〈CTO〉)目標を示した。品質優位性の強みをさらに磨きつつ、増産体制の整備などに取り組む方針だ。

足元ではEVや再生可能エネルギー分野のデバイスを中心にSiCパワー半導体の採用が進む。また新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、SiCウエハーの大型化につながる8インチウエハー技術の開発を目指す3件の研究計画に約186億円の支援を決定。レゾナックやセントラル硝子などが高品質な単結晶の量産技術確立に挑む。

信越化学とOKI、GaN新技術の開発に成功

EVや再生エネの普及が進み、電力を制御するパワー半導体市場は大きく成長する

EVや再生エネなどの分野ではSiCの普及が先行するが、他の次世代素材の技術開発も着実に進む。信越化学工業はGaNエピタキシャル成長用の複合材料基板「QST基板」を手がけ、量産体制を構築している。19年に米クロミスからライセンスを取得し独自に改良。GaNと熱膨張係数を一致させた窒化アルミニウムをコア層に用いる基板材料で、基板上にGaNの厚膜形成を可能とする。

Si基板上にGaNを結晶成長させる「GaNオンSi」で生じやすい反りやクラック(ひび割れ)を抑え、物性を発揮できるが高コストな「GaNオンGaN」といった既存技術の課題克服が見込める。さらにOKIが持つ結晶膜の剥離・接合技術と組み合わせ、GaN機能層のみを剥離し異種材料基板へ接合する新技術の開発に成功。高電圧・大電流に適したGaNの縦型導電が可能で、放熱性の高い導電性基板に接合することもできるようになる。4―5年後の新技術を用いた製品化や基板材料の収益貢献などを想定する。

GaNはSiCと比べて2・5倍の耐圧性、電力損失10分の1への低減が見込めるなど物性面で優れる。新技術はGaNの普及における課題克服や、より高性能なパワーデバイスの実用化への貢献が期待される。信越化学の山田雅人理事は「縦型GaNが今回の技術で実現すればSiCに比べても安価にできると考えている。基板をリサイクルできればさらなるコストダウンも見込め、コストと物性の両面で置き換わる領域が増えるのでは」と期待感を示す。

周辺材料に商機拡大

調査会社の富士経済(東京都中央区)は、35年のパワー半導体世界市場が22年比約5・0倍の13兆4302億円に達すると見込む。特にEVや再生エネなど高耐圧化が求められる分野では普及がさらに加速し、SiCやGaNなど次世代パワー半導体市場は同31・1倍の5兆4485億円規模になると予想する。

基板材料だけでなく、デバイスの周辺材料にも商機が拡大している。artience(旧東洋インキSCホールディングス)はSiCなどのパワー半導体チップに用いることで無加圧焼結と高い放熱性を両立できる焼結型銀ナノ接合材を開発。住友ベークライトも次世代パワーデバイス向けに封止材やダイボンディング材など高放熱・高絶縁の材料開発を強化する方針だ。

「省エネ化やデータ通信量増加などパワー半導体は中長期で需要拡大が期待できる」(倉知圭介取締役専務執行役員)とし、最注力領域の一つに位置付ける。次世代品の市場成長や本格普及へ期待が高まる中、革新を支えるメーカーの素材技術が注目される。


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日刊工業新聞 2024年01月04日

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