半導体産業への異次元支援策から2年、出始めた成果と今後の焦点
工場・開発拠点の立地相次ぐ
政府が半導体産業に対する異次元の支援策を打ち出し、約2年が経過した。足元では計約4兆円にも上る巨額予算の追い風を受け、国内外から生産拠点や研究開発拠点の国内立地が相次ぐ。大規模支援の最初の事例となった台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県の生産拠点など、2024年から支援対象となった実プロジェクトが動き始める。供給力強化や日本の半導体復興につなげられるか。成果の刈り取りが焦点となる。(編集委員・政年佐貴恵)
「これまで培われてきたスピード感に、継続と拡大という要素を積み上げていくのが私のやるべき仕事だ」。斎藤健経済産業相は、半導体に対する支援の手を緩めない考えを示す。政府が大規模支援の姿勢を明確にしたのは21年度のことだ。同年の補正予算で全体の1割超に当たる7740億円を計上。その後も額は伸び続け、22年度第2次補正では1兆3036億円、23年度補正ではそれをさらに上回る1兆9867億円を充てた。
データセンターやインフラ機器、ロボット、自動車、生成人工知能(AI)など、あらゆるデバイスに使われる半導体は今や戦略物資で、経済安全保障上で重要な位置付けにある。地政学リスクも相まって米国や中国、欧州が兆円単位の投資支援を掲げて自国内に製造拠点を呼び込む中、日本も政策の実効スピードを引き上げて投資先としての魅力を高めてきた。6月に改定した半導体・デジタル産業戦略では従来の目標を引き上げ、30年までに官民で12兆円超の規模の追加投資を行い、半導体を生産する企業の売上高の合計を20年比3倍の15兆円にすることを掲げた。
成果は出始めている。最も注目されるのは、回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)の最先端半導体の国産化を目指すラピダス(東京都千代田区)だ。北海道千歳市に建設中の工場では、27年の量産化を目指す。同じく先端分野では、TSMCが同22ナノ―28ナノメートル、12ナノ―16ナノメートルのロジック半導体生産に向けた投資を決定。米マイクロン・テクノロジーも広島工場で、国内で初めてEUV(極端紫外線)露光装置を使った次世代メモリー半導体の量産を計画する。このほかにも「さまざまな案件が持ち込まれている」(経産省幹部)と、水面下で交渉は進む。
23年度に入ってからは裾野の広がりと同時に、サプライチェーン(供給網)の垂直支援を強化する動きが目立つ。東芝とロームによるパワー半導体の共同生産事業に加え、後工程ではサムスンの3次元(3D)実装に関する先端技術への助成を決めた。併せて国内生産や販売量に応じて税優遇する新たな税制を創設し、アナログ半導体やマイコンを対象に設定。経済安保推進法では半導体製造装置や装置に使う部品、材料も特定重要物資に指定するなど、補助金だけでなく規制や税制面も含めた総合的な支援策を講じる。
大胆な政策で半導体産業が日本に再び根付きつつある。各国政府が国を挙げて半導体振興に取り組む中、政府主導での取り組みが強力なけん引役となり実現した成果だが、日本は過去に苦い経験がある。国主導でNECと日立製作所のDRAM事業を統合した旧エルピーダメモリは、多額の公的資金を投じたが経営破綻。日立、NEC、三菱電機の半導体事業を統合したルネサスエレクトロニクスも、長年経営の低迷が続いた。国や母体会社などの間の綱引きで責任があいまいになったことや、迅速な意思決定ができなかったことが要因として挙がる。
需要の創出も課題だ。半導体の供給先である国内デバイス産業の競争力低下も、半導体凋落(ちょうらく)の要素の一つとされる。11月に開かれた半導体・デジタル戦略検討会議でも、先端半導体などを念頭に「作った半導体をどんな用途に使うかまで検討すべきではないか」との指摘があったという。
特に最先端半導体を手がけるラピダスにとっては重要なテーマだ。斎藤経産相は「海外のトップメーカーも量産に至っていない研究開発段階で、現時点では国が一歩前に出て支援する段階だ」と述べるとともに「顧客開拓などビジネス戦略の検討も本格化していくべき」との認識を示す。ラピダスと、カナダのAI半導体設計スタートアップであるテンストレントの提携は、将来の製造受託も見据えた動きだろう。
補助金頼みのままでは、産業の発展は見込めない。24年度以降は需要創出も含め、プロジェクトの自立に向けた支援策の拡充もテーマになりそうだ。
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