「パワー半導体事業」に大きな伸びしろ、東芝D&S取締役に戦略を聞く
カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の追い風もあり、車載向けなどで東芝のパワー半導体事業は伸びしろが大きい。一方で設備投資の積極化には多額の資金が必要となり、ロームとの協業で総合的な供給力を高めていく。東芝デバイス&ストレージ(川崎市幸区)の栗原紀泰取締役半導体事業部バイスプレジデントに市場動向の認識や戦略を聞いた。
―現在の半導体市況をどう捉えますか。
「10月まで姫路半導体工場(兵庫県太子町)のゼネラルマネジャーを務めていたが、現場の感覚で言うと、2023年度上期の民生向けは非常に苦しかった。電子機器メーカーからは『下期以降、少し持ち直している』という声を聞くが、製品を製造する我々としては足踏み感がある。データセンター(DC)向けでは人工知能(AI)サーバーや大型のDC向けはまだ勢いがある。ただ、小規模や一般的なサーバー向けなどは競合も多く、引きずられて落ちている」
―車載向けは。
「民生向けと車載向けの半導体では明らかに信頼性やグレードが違う。車載向けは競合も限られ、デザインが早めに決まることもあり、訴求点がはっきりしている製品は強い需要がある」
―車載向けの需要は当面は根強いと。
「我々は低耐圧の金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)で世界上位のシェアだが、電動化や電装化の影響でMOSFET全体の需要が10年で1・6倍になるとされる。我々の半導体は発電を含めて広く使われており、特にMOSFETは高耐圧を含めてすべてが市場のメガトレンドに乗る。シェアを維持・伸長するため新技術を早く投入する必要がある。あとは供給力の問題だ」
―傘下の加賀東芝エレクトロニクス(石川県能美市)で、300ミリメートル(12インチ)ウエハー対応のパワー半導体の新工場を建設中です。
「工事自体は順調で24年度上期に稼働予定だ。装置が入り次第、徐々に稼働を増やし、最終的に生産能力は21年度比で2・5倍に拡大する見込みだ」
―同工場の2期工事の実施は。
「2期工事は生産能力を(21年度比で)3・5倍に拡大することになるので、まずは1期分をどこまで使い切るかだ。25年春には姫路半導体工場内で車載向けパワー半導体の新工場棟も稼働する。民生や車載の需要を見極める必要がある」
―ロームとパワー半導体で協業します。
「両社が個別に投資や生産をするよりも、ロームが炭化ケイ素(SiC)パワー半導体、当社がシリコンパワー半導体に重点的に投資・生産する方が投資効率が向上する。半導体事業で重要なスケールメリットの実現につなげることを狙う。その結果、両社のパワー半導体の国際的な競争力が向上することを期待している」(編集委員・小川淳)
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