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樹脂成形、半導体、溶接…用途に応じて進化してきたロボットとメーカーの戦略

産業用ロボットの技術と市場の航跡 #5 汎用的技術開発から専用能力の追求へ

設備投資が絞り込まれ、かつ投資の妥当性を厳しく問われる事態となると、当然のことながら価格に対する要求は厳しくなります。しかし、産業用途は何らかの競争力強化が目的であるため、安ければよいということではありません。重要なのはコストパフォーマンスです。

産業用ロボットを製造現場に導入する目的は明確です。購買側は、目的を満たす必要最低限のパフォーマンスをそれに見合った価格で求め、より安価であればそれに越したことはない、という費用対効果を志向することになります。1980年代のロボット需要にはある程度のチャレンジ要素もありましたが、設備投資が絞り込まれた1990年代には、その尤度は小さくなり、より直接的な目的達成志向が強まりました。

産業用ロボット市場の初期には、さまざまな用途に転用できる汎用的な期待も多く語られました。しかし現実には同じロボットを、たとえば板金工場と半導体工場で使いまわすという使い方はありえません。目的とする用途に適した仕様が充実していることの方が重要です。1990年代のコストパフォーマンスの追及は必然的に、汎用型よりも用途特化型を求める流れを加速しました。もちろん、1980年代のロボット市場にも総合的なロボット技術向上を目指した汎用的ロボットだけでなく、用途特化ロボットの両方の事業は存在していました。1980年代からの用途特化ロボットの代表例は樹脂成形機からの取り出しロボットです。現在でも年間出荷台数の5%前後を占めるシンプルな直交型である、樹脂成形機からの取り出しロボットは、1980年代の市場立ち上がりの初期から用途特化型ロボットとして当時の出荷台数の30%以上を占めていました。ロボットというよりは、むしろ樹脂成形機のオプション機器という位置づけの特殊な事業形態です。

1990年代にクローズアップされた用途特化型ロボットの一つが、半導体や液晶パネルなどフラットパネルディスプレイの搬送用のクリーンロボットです。クリーンルームで使用することを目的とした特殊な構造のロボットは1980年代の後半から登場し、半導体と液晶パネルの世界市場が大きく動いた1990年代に出荷台数を大きく伸ばしました。クリーンルーム用ロボットの作業は比較的単純な半導体ウエハやフラットパネルディスプレイ基板ガラスの搬送でした。ただし、ウエハやガラスの上のクリーン度が求められるため、ロボット自体から機械の摩耗粉などの異物が出ないようなシール構造や、ワーク面に異物が落下しないような機械構造などの特殊な機械設計が必要でした。樹脂成形機からの取り出しロボットやクリーンロボットは、機械の構造そのものが特殊な用途特化型ロボットです。

標準的な構造である垂直関節型ロボットも用途に応じたバリエーションに進化していきます。機械系のバリエーションとしては用途に応じた軸数、アーム長、可搬質量、さらに作業環境に対応した製品としてシリーズ化されます。機械系だけではなく制御能力についても用途ごとに重視する仕様は異なります。たとえば、アーク溶接やシーリングなどでは軌跡精度が要求されますが、スポット溶接や組立、ピックアンドプレース作業では停止精度や高速移動が要求されます。それぞれの用途に応じて、制御方式として重視する仕様は異なります。また、この年代は情報処理技術の進歩を背景として、プログラミングツールなどのロボット関連ソフトウェア製品も進化しました。当初はテキストエディタを基本としたプログラミングツールも、用途に応じたヒューマンマシンインターフェースを備えたツールとして洗練されていきます。

クリーンロボットの例(左:大型液晶ガラス基板搬送用、右:半導体ウエハ複数枚搬送用)(三菱電機提供)

1990年代初頭に20%前後であった日本製ロボットの輸出比率は、1998年に40%を超えました。国内需要の低調が続く中で、日本のロボットメーカは海外市場開拓に向かいます。日本製ロボットの1990年代の輸出拡大は、特に日本の製造業の海外生産拡大に伴う、現地工場向けロボットの出荷増が大きく影響しています。日本製ロボットの輸出比率は、1990年代初頭には20%以下でしたが、10年後には50%近くまで拡大しました。

全世界の需要構造の変化で見ても、1980年代の日本の圧倒的な需要シェア70%は、1990年代終盤には45%まで低下しています。後に爆発的に需要が拡大するアジア向けは当時はまだ10%以下です。当時の需要国は韓国、台湾、タイ向けが中心で、需要拡大の兆しはあったのですが、韓国とタイは1997年に発生したアジア通貨危機による大きな経済ダメージを受け、台湾は直接的な影響は受けなかったものの、アジア需要は沈静化してしまいました。1990年代にはロボットメーカの淘汰が進み、生き残ったロボットメーカはそれぞれ特徴が明確になっています。海外では、欧州勢のABBとKUKAが自動車産業を中心とした事業展開で群を抜いて売り上げを伸ばし、世界のビッグ4を形成しています。世界のビッグ4の残りは、ファナック安川電機の日本勢トップ2社で、こちらはともに自動車ユーザに強みを見せて成長してきました。日本市場では次いで、川崎重工業不二越が同じく自動車ユーザに強みを見せてトップ2を追っています、川崎重工業はユニメーションの国産化以来のロボット老舗メーカ、不二越は油圧ロボットからスタートした大型ロボットを得意とするメーカです。

全世界のロボットの出荷先地域別台数推移(データ出典:World Robotics(IFR))

ファナック、安川電機、川崎重工業、不二越はいずれも大型ロボットによる塗装、溶接、マテリアルハンドリングなどを得意とするメーカですが、小型ロボットによる組立やピッキング用途などへの展開も見せています。小型組立に強みを見せるメーカは自社の現場で鍛えられた電機品メーカを中心とした、三菱電機デンソーウェーブ、セイコーエプソンヤマハ発動機などです。以上のロボットメーカは基本的に総合ロボットメーカで、それぞれ得意とする分野を中心として、多様な分野への展開を目指しています。

用途に特化したロボットメーカとしては、溶接ロボットで、ダイヘン、神戸製鋼所、松下産業機器(現パナソニックインダストリー)、樹脂成形機からの取り出しロボットで、スター精機、ユーシン精機などが当時の日本ロボット工業会の会員リストにみられます。
(「産業用ロボット全史」p.87-91)

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<書籍紹介>
日本は産業用ロボット生産台数で、世界シェアの半分を占めています。一大産業となった産業用ロボットはどんな技術に支えられ、どのような変化を遂げるのか。長年、産業用ロボットの現場にいた著者がロボットの要素技術から自動化までを解説します。
書名:産業用ロボット全史
著者名:小平紀生
判型:A5判
総頁数:256頁
税込み価格:3,300円

<編著者>
小平紀生 (こだいら のりお)
1975年東京工業大学工学部機械物理工学科卒業、三菱電機株式会社に入社。1978年に産業用ロボットの開発に着手して以来、同社の研究所、稲沢製作所、名古屋製作所で産業用ロボットビジネスに従事。2007年に本社主管技師長。2013年に主席技監。2022年に70 歳で退職。
日本ロボット工業会では、長年システムエンジニアリング部会長、ロボット技術検討部会長を歴任後、現在は日本ロボット工業会から独立した日本ロボットシステムインテグレータ協会参与。日本ロボット学会では2013年〜2014年に第16代会長に就任し、現在は名誉会長。

<目次(一部抜粋)>
序章  産業用ロボットの市場と生産財としての特徴
第1章 産業用ロボットの黎明期
第2章 生産機械として完成度を高める産業用ロボット
第3章 生産システムの構成要素としての価値向上
第4章 ロボット産業を取り巻く日本の製造業の姿
終章  ロボット産業の今後の発展のために

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産業用ロボットの技術と市場の航跡
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2023年11月29日から12月2日までの4日間、東京ビッグサイトで「2023国際ロボット展」が行われます。産業用ロボット、サービスロボット、ロボット関連ソフトウェア、要素部品などが出展され、国内外から多数の来場者が集まります。イベントに関連して、日刊工業新聞社が発行した「産業用ロボット全史」より一部を抜粋し、掲載します。

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