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厳しい開発要求が強い原動力に…日本のロボットメーカー成長と生き残りを支えたのは

産業用ロボットの技術と市場の航跡 #4 国際競争力の高い製造業が鍛えたロボット産業

初期成長期のロボット産業をけん引したのは、溶接用途を中心とした自動車産業と、組立用途を中心とした電機電子産業です。ロボット普及元年前後の1978年から1981年までの累積用途別納入実績台数6万3948台のうち、適用分野別にみると、合成樹脂2万1011台(33%)、電気機械1万3645台(21%)、自動車1万1064台(17%)となっています。自動車や電気機械産業では、早くからロボットの活用に積極的だったことがうかがえます。なお、最大適用分野の合成樹脂ですが、これは樹脂成形機からの取出専用ロボットが、樹脂成形機メーカ向けに多く出荷されたことを示しています。樹脂成形機はあらゆる製品の樹脂部品を製造する生産財で、代表的な用途は自動車の内外装や電気機械の外装や構造部品です。そのため、合成樹脂分野向け出荷ロボットの中には、自動車や電機電子産業の製造現場で使用されるものも多く含まれています。

1978年〜1981年の累積用途別出荷台数の構成比

自動車産業と電機電子産業は日本の安定成長期の主役となったハイテク2大産業で、国際競争力を発揮し1980年代の日本に大幅な貿易黒字をもたらしました。この国際競争力には、日本が得意とする自動化技術が大きく貢献していますので、安定成長期と産業用ロボットの普及開始時期が一致したことは必然でもありました。自動車産業と電機電子産業は、進化の過程にある生産財を積極的に活用しつつ、さらなる進化の加速を求めることで国際競争力を強化していきます。

普及初期の産業用ロボットは機能や性能は発展途上で、現場のあらゆる期待に十分に応えうるレベルにはありませんでした。しかし、生産技術に長けたユーザは、当面はロボットをうまく使いこなす工夫をしつつ、ロボットメーカに対して次々と厳しい開発要求を示す流れとなりました。この流れが、ロボット産業の技術的進歩と事業体制の充実を促進する強い原動力となりました。

国内外の自動車メーカでは、1980年代の早い時期に溶接ロボット、塗装ロボットの採用メーカを決めるコンペティションを実施しています。コンペティションでは、ロボットの機能や性能の比較に加え、開発体制、保守体制を考慮したうえで、採用メーカの絞り込みを行っています。ここで採用されたロボットメーカは、現在に至るまで中大型の産業用ロボットを中心に、業界のけん引役となっています。また、電気機器メーカの多くは、自動化効果を強く求める自社内生産現場を鍛錬の場としてロボット技術を磨き上げ、中小型の産業用ロボットを外販するロボットメーカとして事業展開を始めました。

1980年代の初期成長期は、前半と後半で多少景色が変わります。前半はまさに初期成長で多くの企業が次々と参入しましたが、後半は激しい競争の結果メーカの淘汰が始まりました。日本産業用ロボット工業会への会員加入状況を見ると、1980年から最初の5年間で、正会員数はほぼ倍増しています。1980年代前半に短期間で多くの企業が市場に参入した結果、各社各様の機械構造が乱立する競争となっています。

日刊工業新聞社の調査によると、1983年の国内ロボットメーカの数は大企業、中小企業を含めて84社、各社から発売されているロボットは計299機種でした。この年のロボット出荷台数は21600台に過ぎないため、発売しても全く売れなかった機種もおそらく相当数存在していたと推定されます。2020年のロボットメーカおよそ30社9、出荷台数18万台と比べると、かなり過当競争になっていますが、市場の立ち上がり時はいかに各社のロボット業界参入意欲が旺盛であったかを物語っています。

日本ロボット工業会正会員数と日本製ロボット出荷台数の推移(データ出典:マニピュレーティングロボット年間統計および各年活動報告資料(JARA))

1986年に日本産業用ロボット工業会の正会員数は減少に転じます。ロボットメーカの最初の淘汰が始まりました。1980年代後半の日本の製造業はプラザ合意に起因する急激な円高により厳しい国際経済環境に置かれたにもかかわらず、国際競争力を発揮して安定成長を果たしています。ロボット産業においてもコストダウンと機能や性能の向上を両方果たしたロボットメーカが生き残ることとなりました。

1985年に実施されたプラザ合意は、増大し続ける米国の貿易赤字を解消するための先進5ヶ国による合意です。その結果、米国の目論見通り、1ドルは200円台から100円台へと急速に円高ドル安が進行しました。それでも日本の製造業は厳しいコストダウンを果たし貿易黒字を重ねるという、非常に強い国際競争力を発揮しました。
(「産業用ロボット全史」p.53-57)

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<書籍紹介>
日本は産業用ロボット生産台数で、世界シェアの半分を占めています。一大産業となった産業用ロボットはどんな技術に支えられ、どのような変化を遂げるのか。長年、産業用ロボットの現場にいた著者がロボットの要素技術から自動化までを解説します。
書名:産業用ロボット全史
著者名:小平紀生
判型:A5判
総頁数:256頁
税込み価格:3,300円

<編著者>
小平紀生 (こだいら のりお)
1975年東京工業大学工学部機械物理工学科卒業、三菱電機株式会社に入社。1978年に産業用ロボットの開発に着手して以来、同社の研究所、稲沢製作所、名古屋製作所で産業用ロボットビジネスに従事。2007年に本社主管技師長。2013年に主席技監。2022年に70 歳で退職。
日本ロボット工業会では、長年システムエンジニアリング部会長、ロボット技術検討部会長を歴任後、現在は日本ロボット工業会から独立した日本ロボットシステムインテグレータ協会参与。日本ロボット学会では2013年〜2014年に第16代会長に就任し、現在は名誉会長。

<目次(一部抜粋)>
序章  産業用ロボットの市場と生産財としての特徴
第1章 産業用ロボットの黎明期
第2章 生産機械として完成度を高める産業用ロボット
第3章 生産システムの構成要素としての価値向上
第4章 ロボット産業を取り巻く日本の製造業の姿
終章  ロボット産業の今後の発展のために

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2023年11月29日から12月2日までの4日間、東京ビッグサイトで「2023国際ロボット展」が行われます。産業用ロボット、サービスロボット、ロボット関連ソフトウェア、要素部品などが出展され、国内外から多数の来場者が集まります。イベントに関連して、日刊工業新聞社が発行した「産業用ロボット全史」より一部を抜粋し、掲載します。

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