駆動部品手がけるトヨタ工場、数々の独自開発ツールが持つ共通の特徴
溶かした金属を型に入れる際の押し出し速度など、1秒当たり2000点の設備データを自動収集することで異常を検知する予兆システム、無線識別(RFID)タグを使った金型管理システム、測定値を無線通信で自動記録できるノギス、金型の補修場所や作業内容を詳細に記録できる金型修理履歴見える化システム―。自動車で動力を伝える駆動部品、トランスアクスルを手がけるトヨタ自動車の衣浦工場(愛知県碧南市)は、他工場に先駆け2017年からデジタル化に着手。数々のツールを独自開発してきた。
きっかけは稼働率悪化など課題を抱えていたダイカスト生産ラインの生産性向上だった。現場の生え抜きメンバーでチームを発足。それまで手書きだった時間当たりの生産数などを管理・記録する生産管理板を、タブレット端末を使い入力できるようにしたのが最初だ。合わせて2次元バーコードを使い不良品の数や不良の種類を記録するツールなどを独自で作製。当初70%程度だったダイカストラインの稼働率は90%以上に改善した。ダイカスト工場では今や必要な設備データの約9割が取得できているという。
独自製作したツールは多岐にわたるが、共通の特徴がある。衣浦工場の時田晋吾工場支援室グループ長は「あくまでも人の作業をデジタルに置き換えるだけ、というのが我々のポリシーだ」と説明する。
デジタル化の取り組みの中で衣浦工場が行き着いた一つの答えが「デジタル技術は人のノウハウを機械に置き換えるためのツールだ」ということだった。例えば「1秒間に2000点」という予兆システムのデータ取得のタイミングも「ベテラン技能員はいつ異常が起きるかをノウハウとして持っている。そこからデータ取得頻度を決めた」(担当者)。現場の人材による内製を重視するのも、システムのブラックボックス化を防ぎ、人がシステムを改善できるようにするためだ。「デジタルツールやデータの活用で異常や不具合の見分け方が初心者でも分かるようになり、人が学ぶ速度を上げられる」(時田グループ長)。
グローバル生産1000万台の母体となっているトヨタの国内工場。「デジタル化については、3年間で世界のトップ企業と肩を並べるレベルまで一気に持っていきたい」。21年の豊田章男社長(当時)の宣言が転機となり、各工場では次世代に向けたそれぞれの変革のあり方を模索し始めている。基盤には「人中心のデジタル化」がある。