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AGCが車載ガラス革新、次世代モビリティー狙う高付加価値製品の中身

事業売上高25年400億円に
AGCが車載ガラス革新、次世代モビリティー狙う高付加価値製品の中身

FIRカメラに対応したフロントガラス

AGCが次世代モビリティ市場を見据え、高付加価値製品の技術開発を加速している。米国の遠隔操縦を伴うレンタカーサービスに向け、活用する車両に同社のガラスアンテナを搭載。遠赤外線(FIR)カメラに対応したフロントガラスの開発も進める。モビリティ事業は三つの戦略事業のうちの一つで、売り上げ規模は2022年度時点で239億円。25年度にはこれを400億円規模へ拡大させ、さらなる成長を目指す。(狐塚真子)

CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の時代、ガラスは一等地。自動車にとってガラスは内と外の間仕切りだったが、熱や音、今や情報をコントロールすることで大きな価値を生み出す」。AGCオートモーティブカンパニーの大西夏行モビリティ事業本部長は、こう力を込める。同社はディスプレー、アンテナ、センサーの3本柱でモビリティー分野へ攻勢をかける。

その一つの事例が、第5世代通信(5G)Sub6(サブシックス)帯に対応するガラスアンテナだ。レンタカー事業を展開する米Halo.carは、自動車のカメラ映像を5G環境で伝送し、それを基に遠隔操縦で予約者に車を配送するだけでなく、乗り捨てられた車を回収するサービスを23年1月に数十台規模で始動。同サービスで運用する車に、AGCのアンテナが1台当たり12カ所搭載されている。

Sub6対応ガラスアンテナ

遠隔操作の上で重要なことは、通信が途切れないことだ。「アンテナからガラスを通しても波長を減衰させることなく車内に持ち込める」(大西事業本部長)点や、貼り付け型のアンテナという利便性も採用のカギとなった。

一方、自動車の安全性向上の観点で貢献すると見るのが、FIRカメラ対応のフロントガラスだ。FIRカメラを設置する部分のガラスをくり抜き、遠赤外線を透過する部材をはめ込むことで、可視カメラとFIRカメラを併存させたより高い視認性を持たせることを可能にした。夜間の事故防止などが期待される。

ガラスの一部をくりぬく技術には、サイドガラスの製造技術を応用。同製品は23年1月に初公開し、現在は顧客の声を受けながら改良を進めている段階だ。まずは「FIRカメラの採用が進む欧州・北米に向けて、27―28年頃の展開を目指している」(AGC)。国内メーカーからも、高い関心が寄せられているという。

大西事業本部長は単に車両だけではなく、農機具や飛行ロボット(ドローン)、船舶、鉄道などの分野にも自社の技術が活躍する場面が広がると捉える。AGCはモビリティ、エレクトロニクス、ライフサイエンスを戦略事業領域とし、これら三つで25年度に売上高4800億円、営業利益1200億円を目指している。ただ、「モビリティは他の二つと比べ足が長い」(大西事業本部長)事業。将来のさらなる成長を見据え、継続した技術開発とマーケティング活動が求められる。


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日刊工業新聞 2023年11月02日

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