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「メーカーベンダー」で存在感…アイリスオーヤマが売上高1兆円へ “種まき”

「メーカーベンダー」で存在感…アイリスオーヤマが売上高1兆円へ “種まき”

アイリスオーヤマのサーキュレーター。北米での販売が好調だ

メーカー機能と問屋機能をあわせ持つ「メーカーベンダー」と呼ぶ独自業態を確立し、存在感を発揮するアイリスオーヤマ(仙台市青葉区、大山晃弘社長)。コロナ禍の特需で伸びた家電事業の低迷などで足元では業績にブレーキがかかるが、“種まき”は抜かりなく、売上高1兆円の目標は揺るがない。家電事業の再成長を実現し、社会課題に対するソリューション事業を拡大できるかが焦点となる。(編集委員・大矢修一)

アイリスグループの売上高

【注目】大型家電、ニーズ開拓 小型は北米生産視野

アイリスグループの2022年12月期決算は減収減益だった。大山晃弘社長は「厳しい一年だった」と振り返る。

同期の売上高は前期比2・5%減の7900億円、経常利益は同29・1%減の365億円だった。期初計画では売上高は同約10%増の9800億円を目指していた。コロナ禍が収束に向かい、アイリスグループが手がけるマスクや家電などの需要も世界中で落ち込んだほか、インフレによる消費抑制という逆風もあった。

現状でアイリスグループの大きな柱は家電事業だ。単体の売上高(22年12月期で2506億円)の約60%を占める。ただ今は我慢の時期にある。コロナ禍では巣ごもり需要で販売が伸びたが一巡した。買い替えが進んだ大型家電の需要が回復するのは当分先になりそうだ。同社は家電事業については数年間の苦戦を予測している。

手をこまねいているわけではない。大型家電については、潜在的なニーズの掘り起こしに力を入れる意向を示す。新たなアイデアを盛り込み、ファミリー層向け商品開発を強化するなどの取り組みを進める。

一方、小型家電分野は新たなチャンスが芽生えている。サーキュレーターの需要が北米で高まっているという。すでに販売額において日本国内を上回っており、一段の伸長を見込む。現状、同社は北米では家電生産を行っていないが、現地生産に乗り出す構想がある。大山社長は「時期は未定だが、小型家電を手がけていきたい」と意欲を示す。

23年12月期について大山社長は「厳しい状況は続いている」と明かすが、「次なる成長への布石は打ってきている」と強調する。競争力強化のため、コロナ禍前から生産の国内回帰を進めており、岡山県瀬戸内市への工場進出を決定したほか、設備増強などを目的に国内工場への投資も継続的に実施している。

次世代の成長エンジンとするべく「IoTソリューション」「ロボティクス」「飲料水」のほか、空気除菌器などを手がける「エアソリューション」といった新規事業の展開にも乗り出した。売上高目標の1兆円はあくまでも通過点。大山社長はその先を見据え、じっくりと歩を進める考えだ。

【展開】ロボ・食品 社会課題ソリュ拡大

10月2日。アイリスオーヤマは国内会場4カ所をテレビ会議システムで結び、24年度新入社員の内定式を開いた。大山社長が熱を込めて説明したのが、同社が掲げる「ジャパンソリューション」との理念だ。

「ジャパンソリューションとは単に生活改善提案をしているわけではない。当社は東日本大震災後には、節電需要に応じるため発光ダイオード(LED)照明に本格参入。コメ事業(を始めたの)も被災地の農業を支えるためだ」。社会課題はニーズの宝庫であり、その解決が成長への原動力になることを強調した。

アイリスオーヤマの業務用清掃ロボット。納入実績を順調に伸ばしている

最近の取り組みで注目されるのは、コロナ禍に新規参入したBツーB領域のロボット事業。「少子高齢化」「人口減少」「働き手(担い手)不足」という課題の解決に役立つソリューションだ。

先行するのが業務用の清掃ロボット。ソフトバンクロボティクス(東京都港区)の製品をベースにカスタマイズした製品を携えて20年末に参入した。わずか3年弱で累計4000社以上へ納入を果たした。23年には大阪のビル管理会社から600台を一括受注するなど販売台数も急増している。

とはいえ、他社製品のカスタマイズでは事業展開に限界もある。ロボットの自社開発に向けた布石として、7月末にロボット開発の東京大学発スタートアップのスマイルロボティクス(現シンクロボ)を買収。アイリスグループ内で企画・開発から製造・保守までトータル展開できる体制を整えた。大山社長は「(買収は)投資の国内回帰の一環。ロボットOS(基本ソフト)は国内でつくりたい」とし、連携での内製化に意欲を示す。

各社の家電関連事業の売上高

BツーC領域では、飲料水、コメなど食品事業への投資が続く。21年には富士小山工場(静岡県小山町)で天然水・炭酸水の生産を開始。23年1月に取得した富士裾野工場(同裾野市)は7月から本格稼働に入った。富士裾野工場の総投資額は約300億円。また既存の鳥栖工場(佐賀県鳥栖市)では精米・パックご飯の生産設備を段階的に導入したほか、飲料水(炭酸水)の生産設備も整えた。

23年12月期の食品事業全体の売り上げ規模は約320億円を見込んでいる。飲料水、パックご飯ともに需要は強い。大山社長は「新たな柱として育ちつつある」と認識する。コロナ需要の減少によるマイナス要因をはねのけながら、社会課題に立ち向かうソリューション事業の拡大に手応えを得ている。

【論点】社長・大山晃弘氏「成長持続へ多角化推進」

―18年7月の社長就任から5年がたちました。

「『まずは良いところを伸ばしていこう』と社内に呼びかけてきた。家電分野を広げてきたが、コロナ禍に入り、そこから経営は変わり、当社で言うところの『投資の国内回帰』に踏み出した。マスクの国内生産、倉庫の増設など国内に投資を振り分ける形になった。この間いろいろな成長の芽を育ててきた。この5年間は全速力で走ってきた」

―日本、中国の製造拠点の現状と展望については。

「家電、生活用品などの“マザー工場”は中国に置いている。当面これは変わらない。一方で食品分野は国内のみに工場を配置している。飲料は静岡県、食品は宮城県角田市に置く。24年3月からは鳥栖工場でパックご飯の生産を予定している。食品分野が伸びることで全体として中国の生産比率は下がると見ている」

―家電に関しては25年稼働予定の岡山工場(岡山県瀬戸内市)で一部製品を生産する計画です。

「小型家電を生産することになる。品目については、市場などの動向を見ながらこれから決めていく。どこで何を作るかの(家電の)生産は徐々に分散していく方向にある」

―現状、商品の内製率はどれほどでしょうか。

「当社が販売する商品の約30%は外部から仕入れている。内製化の比率は高めていきたいが、新事業も相次いで立ち上がるので、今後もそうは変わらないと見ている」

―グループ売上高1兆円は通過点になると思います。その先、アイリスはどんな会社を目指しますか。

「成長を持続する上で忘れていけないのが、当社の企業理念の第一条である『会社の目的は永遠に存続すること。いかなる時代に於いても利益の出せる仕組みを確立すること』。それを成し遂げていくことになる」

「具体的には一段と事業を多角化していきたい。今は売上高に占める家電事業の比率が高いが、他の事業の比率を高めていく必要がある。会社として何があっても深刻な状況にならないように一段と力を高めていく。昨今の地政学を考えると、海外では北米、欧州での投資も新たに検討していきたい」

日刊工業新聞 2023年10月31日

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