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JR東日本が運用開始、列車運行・混雑・気象を網羅した情報基盤「JEMAPS」の生かし方

JR東日本は列車の運行状況や乗客の混雑状況、気象・防災情報などを地図上に重ねて表示するデジタルツイン情報基盤「JEMAPS(ジェイイーマップス)」の運用を開始した。自然災害や輸送障害が発生した時、現場の社員もすぐに状況を把握し、迅速な初動対応に役立てられる。今後、他の鉄道会社との連携も模索したい考えだ。(梶原洵子)

JEMAPSでは、地図上の山手線や中央線の線路の上を、各列車を表した長方形が生き物のように動いていく。長方形の高さは乗客数を示しており、駅に停車するたびに上下する。乗客数は乗り心地のために車両の下部に搭載されている空気バネの状態から推定したもので、約30秒ごとにデータを更新する。

こうした自社の列車の状況に加え、JEMAPSは外部から取得した気象・防災情報などをまとめて表示する。「膨大なデータをブラウザー上で表示するため、重たくならないように工夫した」と、イノベーション戦略本部デジタルビジネスユニット兼Digital&Dataイノベーションセンターの下田良征チーフは話す。

列車運行を束ねる部署である指令では、以前から同様の情報を個々に把握していたが、JEMAPSでは社長から現場の社員まで同時に全体像を把握することができる。

山手線内の列車をグラフ化。乗客数によって高さが変わる(JR東提供)

輸送障害が起きた時、運行管理以外の部署も避難や乗客を救済する計画を立てるなど、さまざまな対応が必要になる。JEMAPSがあれば、例えば、複数駅を統括する駅などで列車の乗客数などを見て、早めに応援を考えられる。「今まで全体を把握できるものはなかった。初動に生かせる」(鉄道事業本部安全企画部門安全推進ユニット〈防災〉の青山正博マネージャー)。

過去の状況も表示でき、後日に対応を検証する時にも使える。防災訓練のシミュレーションにも活用する。

今後、JR東は幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催中のエレクトロニクス展示会「CEATEC」や11月に開催する鉄道技術展でJEMAPSを展示し、他の鉄道会社などとの連携を模索する。振り替え輸送などに役立つと期待する。

JEMAPSは2022年6月から運用を始め、現在は首都圏と新幹線、地方の一部区間の情報を表示できる。24年度初めにはJR東の全区間をカバーする計画だ。運用開始から1年がたち「忘れ物の探索など、日常のちょっとした用途に使っていると現場から聞く」(下田チーフ)などの発見もある。

人の移動を可視化する点でもおもしろく、鉄道博物館(さいたま市大宮区)での展示は好評だった。今後も一般の人向けにデジタルサイネージ(電子看板)などで情報提供する。社内外で利用を広げることで、新たな用途が見つかりそうだ。

日刊工業新聞 2023年10月20日

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