強度向上・再起動時短…太陽誘電が初開発した「SOFCセル」の実力
太陽誘電は固体酸化物型燃料電池(SOFC)のセルを開発した。基幹部材の電解質に使うセラミックス系材料の厚みを他社のSOFCの半分以下に薄くし、より低温(600―750度C)で作動可能にした。電解質や電極を金属で支える構造にすることで再起動までの時間も一般的なSOFCより短縮できた。5年以内に業界トップ級の電力密度(エネルギーを短時間で放出できる能力)をより大きなセルで実現したい考えだ。
太陽誘電がSOFCのセルを開発したのは今回が初めて。家庭用燃料電池や燃料電池車(FCV)、飛行ロボット(ドローン)などで採用を目指す。
SOFCは電池の性能を左右する電解質にセラミックス系の固体材料を用いた燃料電池。発電するセル部分は電解質を2枚の電極で挟んだ構造で、空気中の酸素が一方の電極(空気極)の触媒に触れて発生した酸素イオンが電解質を透過して、もう一方の電極(燃料極)にある水素イオンなどと結びつき、電気を発生する。プラスチック系材料を電解質に用いる固体高分子型燃料電池(PEFC)と異なり、反応のための触媒にプラチナ(白金)など高価な金属を使う必要がない。
作動温度はPEFCが80度C前後なのに対し、SOFCでは電解質のセラミックス系材料を活性化させるため1000度C程度。燃料のエネルギーをどれだけ電力に換えられたかを示す発電効率はSOFCが50%ほどでPEFCの30―40%を上回るものの、作動温度が高いため、一度停止すると再起動するまでに時間がかかるなどの課題があった。
今回、太陽誘電は積層セラミックコンデンサー(MLCC)製造で培ったノウハウを応用。SOFCの電解質のセラミックス系材料を厚み10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)未満まで薄くし、均一に成形した。電解質を薄くすることで酸素イオンの移動距離が短くなり、より低い温度で作動可能になった。試作段階では直径が20ミリメートルと30ミリメートルのSOFCセルが650―700度Cで作動することを確認したという。
電解質と2枚の電極を束ねて支える金属支持層も設けた。SOFCの再起動に時間がかかっていたのは、電解質と電極の膨張率が異なっており、温度が急に変化すると割れが発生する可能性があったことも一因。金属支持層で抑えることでこうした事態を防ぎ、熱を加えてから発電を始めるまでの時間を数十分に短縮できた。
試作では電池にとって重要な指標の一つである電力密度も、1平方センチメートル当たり0・7ワットと「業界トップ水準」(太陽誘電)を実現した。同社は5年以内に100ミリメートル角やそれ以上の大きさのセルでも同レベルの電力密度を実現するため改良を続ける。並行してセル以外の部分を手がけるモジュールメーカーと連携し、電池としても特性を発揮できるようにしたい考え。
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