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成長の青写真は不透明…東芝は非上場化で生まれ変われるか

成長の青写真は不透明…東芝は非上場化で生まれ変われるか

東芝は非上場化で再成長を目指す

日本産業パートナーズ(JIP)陣営による東芝のTOB(株式公開買い付け)が成立した。年内に非上場化され、上場企業としての74年の歴史に幕を閉じる。株主が一本化されることで、長年続いた経営の混乱に終止符を打つことが期待されるものの、収益力改善に向けたその先の成長戦略の青写真は不透明なままだ。東芝は生まれ変わることができるのか。(編集委員・小川淳)

株主一本化、成長戦略大胆に

「多くの株主の皆さまに当社の考え方をご理解いただけたことに深く感謝する。当社グループは新しい株主の下、新たな未来に向かって大きな一歩を踏み出す」―。東芝の島田太郎社長は21日、JIP陣営によるTOB成立を受け、コメントを公表した。

総額2兆円の買収にはJIP陣営に対して国内金融機関の融資のほか、ロームが3000億円、オリックスが2000億円、日本特殊陶業が500億円をそれぞれ出資するなど、東芝の再生に向けて幅広い支援が広がる。21日には中部電力が1000億円を出資することを発表した。

今回の買収により株主がJIP陣営に一本化され、アクティビスト(物言う株主)は退場する。「現在の株主構成では中長期的に一貫した戦略を実行し、成長することが困難」(島田社長)という八方ふさがりの状況から脱却できる。より大胆な経営判断や腰を据えた成長戦略を描き、企業価値を再度高めることが期待される。数年以内の再上場も視野に入れているもようだ。

また、今回の買収で融資や出資で関与した金融機関・企業も、アクティビストのように短期的な結果を求める可能性は低い。オリックスの井上亮社長は、「JIP陣営のプラン通りに進めば大きな問題には発展しないと考え、拠出を決めた。純投資であり、出口戦略は5年程度とみている」と説明してきた。また、ロームは東芝と次世代半導体の炭化ケイ素(SiC)を用いたパワー半導体事業などでの協業を狙っているようだ。

データサービス会社に変革模索

JIP陣営によるTOB開始に合わせてオンライン会見する東芝の島田社長(8月7日)

とはいえ、非上場化後の成長路線には不透明な点が多い。島田社長は8月のTOB開始時の会見で、「中長期的な視点で会社を変革し、カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)とサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に貢献できる企業を目指す」と説明する。この目標の実現のため、エネルギーやインフラ、デバイスなど既存の事業の垣根を超え、データサービスビジネスで稼ぐ会社へと変革しようとしている。

だが、2022年策定の経営方針では30年度の売上高目標を現在の約1・5倍になる5兆円としている。8年におよぶ経営の混乱の中、家電や医療機器など次々に事業を切り売りしてきた上、TOBに伴って巨大な財務負担を抱えながらの実現は高いハードルとなる。

出資者に名を連ねたロームは、東芝とパワー半導体事業などでの協業を狙っているようだ(東芝の半導体新工場〈手前の建物〉の完成イメージ)

また、分社化して持ち分法適用会社にした半導体大手のキオクシアホールディングス(HD、東京都港区)の業績も変数になる。市況の軟化により、足元で業績が悪化している。一方で、同社は同業の米ウエスタンデジタル(WD)との経営統合も視野に入っている。いずれも東芝の今後の経営を左右する要因となる。

これらの不安要素を抱えつつ、再出発に向けて船出した東芝。輝きを取り戻し、名門を再建できるか、島田社長の覚悟が問われる。

私はこう見る

パワー半導体など選択肢拡/東海東京調査センターチーフアナリスト・石野雅彦氏

TOB価格の4620円は、今の東芝やキオクシアHDの業績を考えれば妥当な水準のため、8割近くの応募を得られたのではないか。

株主がJIP陣営に一本化することで、過去にわたるファイナンスの失敗を補正できる。今までは少数株主のせいで自由にハンドリングできなかった。銀行団からの役員派遣は避けられないだろうが、社内からも腹の据わった人を昇格させ、素早い改革に挑む必要がある。

今回の買収は国の半導体戦略と絡めた大きなディールとして考える必要がある。今の140円台という円安水準の中、キオクシアHDを必ずしも売却する必要もなくなった。パワー半導体や半導体製造装置を含め、選択肢は非常に増えた。

東芝は2030年くらいまでには再上場するだろう。半導体を含めた社会インフラ企業として、主に日本国内で再成長していくのではないか。生成人工知能(AI)の登場やCNの進展で、ビジネスチャンスは広がる。(談)

キオクシアHD売却カギに/SBI証券シニアアナリスト・和泉美治氏

上場廃止になっても株主構成が変わるだけで、会社自体が変わるわけではない。ただ東芝が言うように多種多様な株主がいて、方向性が定まらなかったのは事実。再成長に向け、CNなどの実現に向けた長期ビジョンを実行するには、株主を一つにするのは手だろう。

今後は出口戦略に向け、JIPの時間軸が課題だろう。四半期のリターンは考えていないだろうが、ある程度のプレッシャーはあるはずで、東芝がどう応えていけるか。ただキオクシアHDの売却が進展すれば財務負担はかなり余裕ができる。

出資したロームなどの企業も短期の売却益は考えていないだろう。さらなる資産や事業の売却は求めないのでは。長く事業が続いてもらい、パワー半導体事業などでビジネスチャンスが広がることを期待しているだろう。

企業改革のあり方としてこうした非上場化はあってもいい。東芝は非上場化で「会社が終わった」などと下を向くことはない。(談)


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日刊工業新聞 2023年09月22日

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