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業界再編加速か…「同意なきTOB」終結、ニデック・TAKISAWAと合意

ニデックは13日、TOB(株式公開買い付け)による買収を表明していたTAKISAWAから賛同を得た。7月に仕掛けた「同意なきTOB」にゴーサインが出たことでニデックのM&A(合併・買収)戦略は一段と加速する。「日本の社会でも通用してきたらもっと大きな会社が短時間で買える可能性が高まる」(永守重信会長兼最高経営責任者〈CEO〉)と、同社が新たな成長事業に位置付ける工作機械で再編を仕掛けるのは必至。ニデック、工作機械業界のいずれも新たな転換点を迎える。(岡山・清水信彦、京都・新庄悠、西沢亮)

コスト・販売で相乗効果

13日、岡山市北区で開いた記者会見で、TAKISAWAの原田一八社長は「(ニデックは)子会社を含めて顧客でもあったし(グループ入りで)顧客層の拡大も考えられる。コスト面でもニデックの購買力はかなり強力。共同購買などで仕入れ原価の低下も考えられる」と、ニデックグループ入りのメリットを説明した。

7月13日に発表されたTOB。TAKISAWAは「真摯(しんし)な提案であると直ちに判断」(原田社長)し、検討に入ったという。2022年1月にもニデック傘下の日本電産シンポ(現ニデックドライブテクノロジー)との資本業務提携の提案がなされたが、それはTAKISAWAが第三者割当増資してニデックの連結子会社になるという内容だった。「株主へのプレミアムも増資の緊急性もなく断った」(同)。

今回は複数回におよび書面や口頭でやりとりし、特別委員会でも8回の会合を持って審議。ニデックの提案が企業価値向上や株主共同の利益につながると判断した。口頭でなされた説明も覚書としてまとめ、13日付で両社で取り交わした。

TAKISAWAが挙げたニデック傘下入りのメリットはほかにも、物流網や生産機能の効率化がある。原田社長は「工作機械は景気の波にかなり翻弄(ほんろう)される業界。強大な財務体質を築くことが必要」と述べ、財務面での強化に期待を示した。

懸念材料もある。経営陣や従業員、取引先の扱いがどうなるか。経営体制は「それこそ白紙。変更の可能性もある」(同)。会見でも雇用は維持すると明言があったが、労働条件がどうなるかは今後の協議事項。「労働組合からは不安を持っている従業員が多いと聞いている。雇用確保は14日の朝礼でも改めて話す」と原田社長。

既存サプライヤーとの取引は、ニデックとの共同購買で漸減することも考えられる。ニデックは次世代の主力商品として電気自動車(EV)向け駆動装置「イーアクスル」に力を入れている。競合するメーカーとTAKISAWAの取引には、影響が出てくる可能性がある。

今回浮き彫りになったのは旋盤メーカーとしてのTAKISAWAの特異性だ。ヤマザキマザックやDMG森精機、オークマといった業界大手を競合に生き抜いてきた。ニデックグループが内製化に挑んでうまくいかなかったという話もある。

原田社長は会見で「旋盤は簡単(な仕組み)だけど、精度を出すのはかなり難しい。当社の旋盤の設計製造技術は、これだけの価値を認められているということ」と胸を張った。ニデック傘下入りで、さらに羽ばたくことが期待される。

旋盤で橋頭堡-工作機械、シェア獲得に心血

記者会見を行うTAKISAWAの原田社長(左)と林田憲明専務

1973年の創業から半世紀、M&Aを駆使しながら2兆円企業に成長したニデックがこれまで追求してきたのはシェアの力だ。最近では電気自動車(EV)向け駆動装置「イーアクスル」で開発攻勢をかけ、EV基幹部品でのシェア獲得に心血を注ぐ。新たに参入した工作機械でも同様の戦略を推し進める公算が高いだろう。

それを後押しするのがM&Aだが、自ら「同意なきTOB」の扉をこじ開けたことで、これまで以上に大胆な手を打てることになる。今回のTAKISAWA買収が成功すれば、工作機械市場の約3割を占める旋盤で橋頭堡を築く。機械事業を統括する西本達也副社長も「TAKISAWAの製品と我々の持つマシニングセンター(MC)はぴったり合う」と評価する。

ただ減速機やプレス機を含む機械事業で2030年度に売上高1兆円(22年度は同1785億円)を狙うニデックにとって、まだまだ駒は足りないはず。実際、TAKISAWAへのTOB表明後も、米プレス機周辺装置メーカーを買収するなど手は緩めていない。

ニデックがこれまで手がけてきた国内でのM&Aは比較的小規模な案件が多かった。永守会長が「詰め物」と形容するように、足りない領域を一つ一つ埋めていくことで成長を加速してきた。ただ、これまでの「詰め物」戦略は、国内では業績が低迷する企業が対象になることが多く、適切なタイミングで欲しい企業を買収できなかったという現実を踏まえた苦肉の策だったと言えなくもない。

TOB表明後の7月の決算会見で永守会長は「経済産業省も新しい指針を出してくれた。15年前に東洋電機製造へTOBを提案した時は乗っ取りだとか言われたが、その経験も生きている。今回は完璧な提案だ」と語気を強めた。経産省が策定した「企業買収における行動指針」(7月時点では案)が「同意なきTOB」に正当性を与え、さらに自ら先陣を切ったことで、15年前の挫折へのリベンジを果たした格好だ。

飽くなき成長を追求するニデックにとって、今回のTOBで「日本のマーケットに『窓』を開ける」(永守会長)ことに成功した意義は大きい。

100社超で価格競争

「業界再編は必ず起きると思っていた」。ある中堅工作機械メーカー幹部は相次ぐM&Aを冷静に受け止める。背景にあるのは工作機械メーカーの多さ。ニデックはTAKISAWAへの経営統合に関する意向表明書で、1兆数千億円の市場に100社以上のメーカーがひしめき不況時には厳しい価格競争に至っていると指摘。一部大手を除き、長期戦略に基づく継続的な成長投資が行えておらず、国内工作機械メーカーの多くは「競争力を欠き低成長のサイクルに陥っている」と分析した。

これだけ多くのメーカーが生き残ってきたのは各社が顧客の要望をくみ取りながら独自の技術を磨き、それがユーザーに受け入れられてきた面もある。別の大手工作機械メーカー幹部は工作機械事業を「酒蔵」に例え「工場周辺から調達している部材を含めた総合力が、各社の競争力を下支えている」という。

ニデックはTAKISAWAとのシナジーの一つとして事業規模拡大を想定。購買・生産の原価低減など規模のメリットを享受できるとしている。例えば部品共通化による調達コスト削減が期待できるが「製品の特徴を維持しながら、部品標準化を進めるという作業は、非常に難しいバランスが求められる」(大手工作機械メーカー幹部)。別の大手工作機械メーカー幹部は「安い製品より顧客の課題を抽出する力が求められている」と話す。

ニデックはこれまで多くの企業買収を手がけ、豊富な経営手法でシナジーを生み出してきた。冒頭の中堅メーカー幹部は「ニデックであれば新たな手法で工作機械特有の課題を克服する可能性があるのではないか」との見方を示す。


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日刊工業新聞 2023年09月14日

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