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広告におけるVチューバーの起用が増加、新たな客層獲得で売り上げアップ

広告におけるVチューバーの起用が増加、新たな客層獲得で売り上げアップ

バーチャル物産展で、ぴょんぴょん舎の盛岡冷麺を“食レポ”するVチューバーのアバター

企業の広告宣伝活動でバーチャルユーチューバー(Vチューバー)の起用が増えている。インターネットの特性を生かし、地方の名産品を全国や世界に発信できる上、若年層への訴求力が高く、今まで取り込めていなかった客層の開拓にも効果的なためだ。他方、そのリテラシーが高い高校生も授業の一環で自らがVチューバーとなり、地元自治体のPR(広報・宣伝)などに一役買っている。(東北・北海道総局長・大橋修)

「当店の顧客は年齢層が高く、かねて10―20代に広げたかった。おかげさまで物販では若い人が買ってくれるようになった」。札幌市内のスープカレー店「GARAKU」のレトルトや冷凍品などを販売するガラクリテール(札幌市豊平区)の千葉新社長は、Vチューバーの販促効果に手応えを感じている。「バーチャル物産展」と題したユーチューブの番組内で、アニメの女性キャラクターを模したアバター(分身)がスープカレーを“食レポ”すると、固定ファンの若い視聴者が書き込みで反応。リアルタイムで双方向のやりとりが続く。

放送後、ガラクリテールでは売り上げが急増。これを受け、Vチューバー6人と「スープカレーはスープか、カレーか、どちらなのかを調査する」という独自企画も実施。これらが奏功してか7月は売り上げが前月比2倍の驚異的な伸びを記録した。千葉社長は今後も「インフルエンサー約20人に当社のアンバサダーになっていただいている。Vチューバーにも加わってもらい、裾野を広げたい」と意気込む。

盛岡冷麺のレストラン「ぴょんぴょん舎」を展開する中原商店(盛岡市)も冷麺やキムチなどの物販に注力中だ。新商品を出した時期とも重なり、2022年11月、バーチャル物産展にチゲスープ3品と南部せんべいのセットで出展したところ、やはり注文が急増した。「注文した人の属性までは分からないが、純増分はおそらく(Vチューバーのファンの)若い人たち」(営業販売部)と見ている。

同店も客層は中高年が中心だ。「手に取ってもらったことのない客層にも紹介していただける」(同)として、6月には満を持して主力の冷麺やキムチなどを出品。担当のVチューバーがたまたま盛岡で冷麺を食べた経験があったことで、視聴者の反応も上々だった。

中原商店では関東や西日本への知名度を上げるため、ネット販売を強化し、催事やスポーツイベントに出店するなど営業攻勢を強めている。「コロナ禍も明け、お土産需要も増えてくる。物販の売り上げを数年内に20―30%伸ばし、2本目の柱にしたい」としてVチューバー効果にも期待を寄せる。

また山形県立米沢工業高校(山形県米沢市)では専攻科の生徒4人がVチューバーとなりアバターを制作。地元をPRする動画作りを進めている。第1弾として同県高畠町の新庁舎建設を題材に、工事の進展を紹介する動画制作を始めた。1作目は地鎮祭の様子を2分程度にまとめ、若い女性アバター2人が解説する。2年後の庁舎完成まで月1回ペースで制作していく予定だ。

米沢工業高校専攻科の生徒4人が高畠町長(左)を訪ね、記念すべき1作目を披露した

さらに地元の伝統工芸品「原方刺し子」をフィンランドに紹介する動画制作にも挑む。あるデザイナーから現地で展示会を開きたいという依頼があり「原方刺し子の解説映像を現地で流したいということで、アバターに現地語で話してもらうことを思いついた」(情野勝弘教諭)のがきっかけだった。アバターなら日本語の解説を簡単に現地語に変換できるという。9月中旬には制作を終え、現地に送る予定だ。

これを応用すれば地元の情報を多言語で世界に発信することも可能になる。「米沢に来てもらうきっかけにもなり、インバウンド(訪日外国人)を増やせる」(同)と夢見る。生徒の技量も進化しており、モーションキャプチャーで人の動きとアバターを連動できるパターンも導入中。「可能性はいろいろある。ビジネスに発展させる仕組みも考えたい」(同)としている。

日刊工業新聞 2023年09月19日

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