利便性だけでは超えられない…オンライン活動は「コロナ後」も定着するか
大学の授業や音楽ライブ、展示会など、人が集まるイベントがオンラインに移行している。動画配信やコミュニケーションツールのベンダーにとっては特需ともいえる状況だ。ただ新型コロナウイルスの収束後もオンラインは定着するだろうか。情報交換の利便性だけでは定着は難しい。移行の先にユーザーコミュニティーがより豊かになる将来像がないと社会的な投資は続かない。(取材・小寺貴之)
【越えられぬ壁】
「ビデオ会議の向こう側で、役員の後ろに社員がずらっと並んで一人ひとり紹介される。あの会社はコロナの収束と共に元に戻るだろう」とHIKKY(東京都渋谷区)の舟越靖社長は大企業とのビデオ会議を終えてため息をついた。先方は役員付の社員がパソコンを立ち上げて役員がパソコンの前に座ると、受け答えのサポートに事業責任者たちが後ろに並んで控えていた。
オンラインツールはコミュニケーションの手段を増やし、移動時間を削減して生産性を向上させた。ただ利便性だけでは越えられない壁があり、コロナ禍で解消されたわけでもない。いつでも元の状態に戻る可能性がある。
【100万人来場】
HIKKYはバーチャル空間で大規模イベントを運用する。29日からは展示即売会「バーチャルマーケット4」を開き、12日間で世界から100万人の来場を目指す。Netflixやセブン&アイHDなどに加え、米国の大型アニメスタジオが参加する。VRの世界観を楽しみながら、各コンテンツやブランドの物販もできる。
12日までは同人誌即売会を開いていた。舟越社長は「VRではうちのような小さな会社も1日数万人規模のイベントを続けて開催できる」と説明する。
来場者は好きなクリエーターに御礼を伝えたり、新しいクリエーターを発掘する場になる。同社取締役の動く城のフィオさんは「アバター文化の発展でより多様でフラットなコミュニケーションや働き方を選べる社会が到来する」と展望する。
【ユーザーと共創】
バルス(東京都千代田区)はイベント配信システムを音楽ライブやビジネスセミナー向けに提供する。もともとVチューバー向けに、動画配信と電子チケットや物販などのオンラインイベント環境を一括提供していた。イベントが開けなくなったライブハウスやセミナー企画会社から要望があり、広く提供することを決めた。
アーティストへの投げ銭のように応援やグッズ、コンテンツをやりとりできる。林範和社長は「企業のブランドコミュニケーションがアーティストとファンのコミュニケーションに近づいている」と指摘する。製造業でもユーザーと共創プロジェクトを立ち上げ、コアなファンを増やす企業が増えている。
コロナ禍でオンライン化は進んだが、手段の利便性や費用対効果だけでは定着するかどうか難しい。その先のファンやユーザーコミュニティーは後戻りさせない力がある。オンラインを産業に定着させ、社会のレジリエンス(強靱〈じん〉性・復元力)を高めるのはユーザーの変化かもしれない。