ニュースイッチ

「東京科学大」発足まで1年、東京医科歯科大・東工大の両学長が語る統合への現在地

「東京科学大」発足まで1年、東京医科歯科大・東工大の両学長が語る統合への現在地

東工大の益学長(右)と東京医科歯科大の田中学長(統合合意に関する会見=22年10月)

東京医科歯科大学と東京工業大学は統合時期を2024年10月に固め、「東京科学大学」(仮称)発足まで残り1年となった。世界最高レベルの大学の実現を目指す「国際卓越研究大学」制度の初回認定候補にはならなかったが、両大学は「研究大学としての変革の志は評価いただいた。採択に向けてチャレンジしていきたい」とする。東京医科歯科大の田中雄二郎学長と東京工業大学の益一哉学長に、統合に関する具体策を聞いた。(編集委員・山本佳世子)

国際卓越研究大学制度への応募と統合計画の関係について東工大の益学長は「統合は両大学の発展のため。同制度には当初から『理念が重なるなら応募する』姿勢だった」と説明する。同制度認定による資金支援が見込めないため計画の一部は規模縮小や先延ばしとなるが、「新大学の目指す姿に影響はない」と東京医科歯科大の田中学長も強調する。

統合時期は後期授業が始まる10月に定めた。現在、両大学の後期開始日は数日ずれているが24年秋にはそろえる。新大学の統合時期や名称は国会の承認により、国立大学法人法の改正をもって正式決定する。早ければ23年秋の臨時国会で確定する見込みだ。

統合の第一目的である研究力強化に向け、両大学の研究者がペアになった多数の共同研究も走り出した。医工連携は例えば「生成人工知能(AI)医歯学」なら核酸医薬と大規模言語モデル、「量子医歯科学」なら再生医療と量子センサーなどだ。

そして新たな研究領域「コンバージェンスサイエンス」を生み出す場を統合後、東京医科歯科大の湯島キャンパス(東京都文京区)で整備する。これは病院を治療のためだけでなく、新たな研究に活用する「リサーチホスピタル」の考えによる。

狙いは「診療報酬による“今日の医療”から、研究・教育の“明日の医療”を分け、これを伸ばす資源を確保する」(田中学長)ことだ。臨床データ活用などの研究を病院隣接で行う「医療工学研究所」を新設する。

両大学の研究紹介イベント。共同研究に対する支援制度も始まった(東京医科歯科大提供)

新事業創出に向けて多様な組織・人が行き交う場は、東工大の田町キャンパス(東京都港区)に設ける。民間資金活用で建設する高層複合ビルの一角で、飛行機や新幹線での行き来も容易な場所にある。東工大は長岡と豊橋の二つの科学技術大学との協定締結に続き、「九州や北海道の大学との連携も詰めており、全国の理工系大学が医工連携を進める上でのハブにする」(益学長)意気込みだ。

一方、教育の統合効果をリードするのは、低学年の学生を中心とするリベラルアーツ(教養教育)だ。学士(学部)課程1学年の学生数は東工大が約1200人で、東京医科歯科大の300人弱よりも多い。

そのため東工大の大岡山キャンパス(東京都目黒区)を活用。「週1回の“大岡山デー”を設け、この日は課外活動も一緒に取り組みたい」(益学長)と考える。数年先には相互の編入枠も増やす。また大学院課程はより柔軟に設計できるだけに「新コースなど現場の教員から案を挙げてほしい」(同)とする。

「科学技術立国・日本の最高峰を新大学で目指す」(田中学長)。この切り口で新大学一丸となった改革が進むと期待される。

関連記事:東京医科歯科大と東工大が「科学大」に新研究所、実現する「リサーチホスピタル」とは?
日刊工業新聞 2023年09月07日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
益学長によると、医工連携1.0はメディカルエレクトロニクス(超音波診断など)、2.0はオンライン診療やロボット手術の”医者いらず”、その間の1.5がヘルスケアやAI診断だという。問題はその先、「医工連携3.0に果たして何が来るのか?」だ。まだ実社会からは見えていない部分こそ、真の研究大学が担うべきターゲットであり、「コンバージェンスサイエンス」という言葉はそれを追究する研究なのだ、と理解した。

編集部のおすすめ