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東北大「国際卓越研究大学」に選定…評価ポイントと出された注文

研究力を土台に社会変革を起こし、外部資金を獲得しながら成長を目指す「国際卓越研究大学」制度。初の認定候補に、文部科学省の有識者会議(アドバイザリーボード)の全員一致で東北大学が選ばれた。改革意識が全学に浸透し、具体的で実効的な計画を打ち出せたことが大きい。同制度は「各大学の現状の研究に点数を付け、上から何校かを選ぶ」ものではない。各大学はこれを機に認識を強く変え、研究力向上に向け大波を起こしていくことが重要だ。(編集委員・山本佳世子)

文科省の国際卓越研究大学制度は、大学10兆円ファンドの運用益を使って25年間にわたり支援するもの。審査は書面、国内外レビュアーの意見聴取に加え、応募した全10大学の面接と、3大学の現地視察で行った。

東北大の研究力強化の具体例は、講座制でなく助教も研究室主宰者(PI)となる新体制、任期制から定年制へ進むテニュアトラック制度の全学展開などだ。マネジメントでは、各部局の月単位収支を把握するデータ基盤が整備されており、これに基づき学内資源を再配分する。改革理念が執行部だけでなく、組織に浸透している点がポイントだ。

一方で「民間からの研究資金などの受入額を10倍以上にする」という目標について、有識者会議は「(海外の資金確保を含む)包括的国際化担当役員(CGO)設置や、(次世代放射光施設などを活用する)サイエンスパーク事業のみならず、戦略の深掘りや見直しが必要」と注文した。

他大学は、大規模大学の欠点とされる組織の意識統一が不十分な傾向がある。例えば東京大学の「カレッジ/スクール・オブ・デザイン」は「学際的で構想は評価できるが、既存組織の変革に向けたスケール・スピード感が不十分」、京都大学の小講座制から国際標準の研究組織への移行は「体制の責任・権限の明確化が必要」とされた。

一般社会では選定の観点が誤解されている面がある。「なぜ選定が1大学なのか。2位、3位はどの大学か」「研究トップクラスの大学は東大や京大でないのか」と考える人が多い。

しかし今回の審査は各大学の異なる提案、多様な計画をみるものだ。文科省・大学研究基盤整備課は「優劣をみる相対評価ではない」「発射台の高さに加え、飛躍度を見た」と強調する。そして「選定は(支援が有効な)ある基準を超えられるかどうかだ」と説明する。

例えば文科省側の指摘には「学内の準備が整っていない」という表現が多くみられる。大規模大学は構想も大がかりで、学内調整に時間がかかるという意味だ。逆にこれらが進めば選定の可能性は高まる。文科省が以前から「数年かけて数校を選定する」と言うのはそのためだ。

今後、選定に漏れた9大学のうちいくつかは、指摘を参考に計画を大幅に練り直して再応募するとみられる。その他は「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」にくら替えして採択を目指す可能性が高い。どちらも2024年度に公募がある見込みだ。世界に存在感がある日本の研究大学群の構築に向けた動きは、まだ始まったばかりだ。

日刊工業新聞 2023年09月04日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
10大学は互いにライバルではなかった…。今回ようやく、私が理解した点がこれだ。国際卓越研究大学の制度は、政府が求める大改革の内容に賛同する大学で、実力に加えて全学一丸で変わる体制を整えたところから順次、文科省が認定していくものだ。「限られた枠に入るため、蹴落とすべき他大学を意識する」ような必要はない。例えるなら、一つの金メダルに向けて競う”オリンピック形”ではなく、ある高いレベルを突破した参加は皆、金メダルを手にできる”科学オリンピック形”だろうか。また運営費交付金の枠内で各国立大を締め上げるのではなく、改革に賛同する優れた大学だけに向けた特殊な仕組みだ。そのため「政府のいうガバナンスなど同制度は、本学の価値観には合わないことが、よくわかった。現場の自由な学術研究を最優先すべき本学は、国のいいなりになるより、より動きやすい資金を得る策に注力すべきだ」と考える大学が、選定されなかった9大学から出てくることは、なんらおかしくない。これはおそらく私大トップの早慶の間で、応募が分かれたポイントの一つでもある。認定候補が1校だったことは、各大学の特色や重点、自律性を改めて振り返る、絶好のチャンスになるだろう。

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