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EVシフトで技術深化!機械産業の新機種・新技術

EVシフトで技術深化!機械産業の新機種・新技術

5月開催のブラザー工業のプライベートショーで注目を集めた小型横型MC「H550Xd1」

中部地方の機械関連各社で「電気自動車(EV)シフト」に連動した技術開発、サービス事業が立ち上がっている。工作機械、プレス機メーカーはEV部品をターゲットにした機種開発を加速。EV部品を見据えた自動化提案のほか、EV化で生き残りを図る中小の車部品加工メーカーに向けたツール開発、修理サービスの提供も始まった。EVシフトが技術の深化を促している。(名古屋・鈴木俊彦、江刈内雅史、津島はるか)

部品加工に新機種、生産ライン70%短縮

EV向けの部品加工の増加を見据え、工作機械メーカーもそれに適した新機種の開発を盛んに行っている。

ジェイテクトマシンシステム(大阪府八尾市、宮藤賢士社長)は2022年11月に、直径120ミリ×全長400ミリメートルの全外径同時研削が可能でEV用モーターシャフトの量産に最適な広幅円筒研削盤「C6040E」を市場に投入した。同社が得意とするセンターレス研削盤の両持ち式構造の砥石(といし)軸は、外周に溝があるモーターシャフトの加工には不向きだったが、親会社のジェイテクトの円筒研削盤の主軸台や心押台などを融合して克服。従来は研削の全工程で円筒研削盤3台が必要だったが、同機1台で全工程を同時研削できるため、生産ライン長の最大70%短縮を実現した。

ブラザー工業は主軸30番テーパの小型マシニングセンター(MC)「スピーディオ」シリーズで初となる横型MC「H550Xd1」を23年4月に発売した。ギアケースなどEV向けで多い大型のアルミニウム部品の加工を想定する。

機械幅1557ミリ×奥行2990ミリメートルで設置スペースは一般的な40番横型MCより約20%少ない4・7平方メートルの小型サイズを維持しつつ、装着可能な最も長い工具を設置した状態で直径600ミリ×高さ580ミリメートルの広い治具エリアを確保した。切り粉の排出性が高くてトラブルが少ないがゆえに自動車業界に好まれる横型の投入で、EV部品の加工ニーズを掘り起こす構えだ。

新たな加工方法も提案

接合に焦点を当て、新たな加工法を提案する動きもある。ヤマザキマザックは、22年11月から摩擦撹拌接合(FSW)加工の専用機「FSW―460V」の販売を始めた。

EV向けの各種ケースは冷却用水路を作るための接合技術がポイント。その際にパッキンやボルト締めによる結合よりも、摩擦熱で材料自体を撹拌して、材料同士を接合するFSWの方がケースを小さくできる。従来の数倍の高速接合を実現した専用機の投入で、EV生産で広まるとみられるFSWの接合需要の取り込みを図る。

自動金属プレス加工向けの不良検出装置などを手がける杉山電機システム(名古屋市中川区)の杉山雅章社長は、「高精度プレスを実現するため、プレス機の周辺制御装置や不良検出装置などの需要が増えており、受注は好調だ」と話す。プレス加工機の周辺機器の動作を制御する自動化カムで、IoT(モノのインターネット)に対応したカラー液晶パネル付きデジタルカム「PS―781」も発売し、高まる需要を取り込む。

圧造機メーカーの旭サナック(愛知県尾張旭市)の間宮幹雄会長は、「EV化への対応で高精度化が求められている。圧造機の弱点である経時変化をできる限り小さくする必要がある」との認識を示す。7月に開かれた塑性加工技術の専門展示会「MF―TOKYO2023」では、室温の金型を加熱して精度を高める仕組みを提案。今後はコールドスタートの場合でも、機械側が調整して高精度を実現できるような技術開発に力を入れる。

旭精機工業はリチウムイオン電池(LiB)缶の成形向けにプレス機が堅調。EV向けLiBの需要拡大を見込み、一層の受注増を期待する。これまでの中国市場とともに中長期的に北米市場をターゲットに拡販を狙う。

車載用LiBとして「4680電池」と呼ばれる直径46ミリ×長さ80ミリメートルの円筒型電池が今後、急拡大すると見込まれている。市場動向を把握し、電池の主流に合わせたプレス機開発を推進している。

マイコン×ロボで高精度検査

パイプピッキング&治具挿入機など多様なニーズに応える

竜製作所(名古屋市南区、石田恭一郎社長)は、視覚装置を用いた電子(マイコン)設計による検査装置を強みに、ロボットを組み合わせた自動化提案を強化している。車部品の電子化により検査作業が増えると予想し、今後は「マイコン設計による検査機の需要が増えてくるだろう」(石田社長)と見通す。

社内に電子設計の部署を持ち、加工現場の状況に応じて最適な視覚装置を製作。マイコンの動作に影響を及ぼすノイズ対策技術の評価は高く、設備の信頼性を支えている。

自動車向け専用機の設計、製作で培った技術を生かし、ロボットプログラミングから設備組み立てまで一貫対応する。車輪ロック防止装置(ABS)の最終検査機で多数の実績を持つほか、パイプピッキング&治具挿入機、ラジエーター製造でのパッキン貼付機など多様なニーズに応えている。

新規分野を開拓、段取り作業効率化

EV化で3万点といわれる部品点数の減少を見越して、中小部品加工各社では自動車業界以外の新規分野の開拓に乗り出す動きが出てきている。

短時間で工具取り付けが可能なエヌティーツールのNC旋盤用ハイドロチャック

車部品で多く見られる大量生産に比べて、他分野では段取り作業の回数が増えると見込み、効率化ニーズへの対応を図るのはエヌティーツール(愛知県高浜市)。コンピューター数値制御(CNC)旋盤用ハイドロチャック「ST・M―PHC」は、油圧式の採用により短時間で高精度な工具取り付けを可能にし、新たな顧客ニーズに応える。

「EV関連部品の製造ラインは新設が進むが、エンジン関連部品の製造ラインは既存設備を修理しながら継続的に使うことが見込まれる」と話すのは、鬼頭精器製作所(愛知県豊田市)の鬼頭明孝社長。精密主軸を製造する志賀機械工業(愛知県知立市)と協力し、工作機械の主軸ユニットの修理サービスを7月に開始した。従来の回転工具の修理事業に加えて、新たに主軸ユニットの修理を受け付け、既存製造ラインの修理需要を広く取り込む。


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日刊工業新聞 2023年08月16日

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