ニュースイッチ

業界再編が活発化、自動車部品メーカーに迫られる事業の「選択」と「集中」

業界再編が活発化、自動車部品メーカーに迫られる事業の「選択」と「集中」

電動化の進展に伴い、エンジン関連部品の需要は減っていく

自動車部品メーカーが事業の選択と集中を迫られている。供給先の自動車メーカーは電動化に本腰を入れ始め、開発の中心はエンジンや排気、燃料系部品から電池やモーターに移行している。一方、部品メーカーは自動車メーカーほど経営資源が潤沢とはいえず、内燃機関車向け部品を手がけ収益を確保しながら、いかに電動化開発への投資を加速できるかが課題となっている。各社が電動化に対応するための事業構造の最適解を模索しており、業界再編も活発化してきた。(名古屋・川口拓洋、編集委員・政年佐貴恵)

譲渡側→利益あるうち 譲受側→シェア拡大に弾み

7月、自動車の電動化を背景とした部品メーカーの再編が相次いだ。ホンダは燃料タンクなどを手がける連結子会社の八千代工業をインド企業に売却する方針を決めた。またデンソーは、内燃機関向けの点火プラグなど一部セラミックス製品事業を日本特殊陶業に譲渡することを決め、同社と基本合意したと発表した。

両事案ともに、利益が出ているうちに内燃系事業を切り出し、電動化など次世代領域への投資を加速したい譲渡側企業と、強みを持つ製品のシェアをさらに高め、利益創出基盤の強化を図りたい譲受側の企業の思惑が一致した形だ。

トヨタ自動車は2018年以降、「ホーム&アウェイ」と称し、業界で先行して事業の選択と集中の動きを強めている。これまでその取り組みの軸は、トヨタから主要トヨタグループ各社への機能移管だったが、最近は再編の対象が部品メーカー同士にシフトしてきている。

特にデンソーは22年に燃料ポンプ事業を愛三工業に譲渡する手続きが完了し、電動化など成長領域へ経営資源を振り向ける方針を明確化する。35年に内燃機関系の売上高を22年比で半減することも表明し、選択と集中を加速させている。

「デンソーほど強力に推し進めるかは別として、その分野のトップでないと生き残れない。選択と集中は各社考えている。それは間違いない」。ある大手部品メーカー首脳は相次ぐ再編についてこう話す。日特陶の尾堂真一会長もデンソーからの事業譲受に関する会見で、「遅かれ早かれ内燃機関エンジンはなくなるであろう。電気自動車(EV)をはじめとする車の電動化で自動車部品業界が揺れている」と危機意識を示した。日本の自動車部品メーカーは、内燃機関車向け製品では世界でトップクラスの技術や販売力を誇るものの「EVは欧州が先行している。日本の産業全体を踏まえ、どう優位性を確保するのか。部品メーカーは事業の方向転換を図らなければいけない」(尾堂会長)と強調する。

一方で、複雑な胸の内を明かすのは中小部品メーカー。大手で先行する事業再編を冷ややかな目で見る。巻き線などを手がけるある中小企業の幹部は「大手は商材がたくさんあり、シェアが高い製品を持っている。(再編は)それだからできること」と語る。別の中小金属加工メーカー首脳も「我々のような事業規模では内燃機関系の仕事を止め、どの程度の規模まで増えるのか分からない電動化の仕事に軸足を移すのはなかなか難しい」と真情を吐露する。

2次や3次部品メーカーには、排気系のパイプしか手がけていない企業や、エンジン部品の試作だけという会社もある。成長分野といえどもEV技術の新規開発は生やさしいものではない。一朝一夕で実現できないほか、部品点数も限られており他社と競合する可能性は高い。こうした企業にとって「電動化は死活問題」(金属加工メーカー首脳)との声が上がる。

特に現場レベルで不安の声が大きい。内燃機関部品を手がける企業の営業担当者は「これからどうなるのか」と不安をのぞかせ、「これまで手がけている(内燃機関向け)部品は競争力があった。電動車向け部品も始めているが、現状では質・量ともに強みを見いだしにくい」と話す。 

EV時代生き残りへ自ら動く

EV時代の生き残りを賭け、自ら動き出す部品メーカーも増えている。ある内装系大手は、海外企業との技術提携以降、出資比率の引き上げを進めている。生産設備の相互活用といった連携をより加速する動きも見せる。

金型の切削加工を強みとする中小メーカー首脳は「中小企業1社1社が、自分たちの生き残りを賭けて何をするべきか考えないといけない時代」と現状を認識する。同首脳が活路を見いだすのは、自動車部品で磨いた技術の横展開。「自動車事業は経営の柱だが、内燃機関車では3万点の部品が電動車では2万点になる。航空機や医療、車載電池など柱を増やすことでなんとか埋めていきたい」と表情を引き締める。

また、自動車業界向け設備部品を手がける企業の首脳は「(顧客が)電動化が加速する自動車業界だけでは不安。建機や土木などの別分野向けを始めた。事業の安定化を狙う」という。さらに別の設備メーカー幹部も同様に「自動車以外の事業を広げたい」と話す。

強固なサプライチェーン(供給網)を構築し、柔軟な部品供給が日本の自動車業界の強み。ただ電動化の流れを受け、そのチェーンの一端を担う企業が業態を転換するケースも増えると見られる。サプライチェーンの空洞化を警戒する声もある中、ある大手部品メーカー幹部は「自動車産業のパラダイムシフトに対応していくため、国や自動車メーカーとともにサプライヤーを支援していく」とし、「自動車メーカーには(ハイブリッド車〈HV〉やEVの開発を網羅的に進める)全方位戦略を進める企業もある。サプライチェーンの中で、いろいろな役割がある。サプライヤーとコミュニケーションをとり、しっかりと対応する」とサプライチェーン維持を最重要視する考えを示す。

トヨタ幹部は「いろいろな変化をしっかり見ることが大切。(仕入れ先との)コミュニケーションを大切にして、業容転換が本当に必要ならやってもらう。我々も全力でサポートする。適切なタイミングを見ていく、というのがトヨタのやり方」と話す。

顧客・市場の動き注視を/SMBC日興証券株式調査部シニアアナリスト・牧一統氏

SMBC日興証券株式調査部シニアアナリスト・牧一統氏

部品メーカーの電動化対応の速度はまちまちだが、総じて言えば顧客の日系完成車メーカーに準じた動きだ。ただ完成車メーカーもEV化の速度を読み切れていない面がある。電動化が早い地域も出ている。部品メーカーは顧客だけでなく市場全体を見て、事業計画を作らないとこの流れから振るい落とされることもあり得る。

内燃機関向け部品しか手がけていない会社でもできることはある。強みを最大限発揮し、成熟した事業からキャッシュを捻出していくべきだ。それを新たな事業に振り向けていく。そういう動きを早い段階から進める会社は将来性がある。

今後も部品メーカーの再編は進むだろう。中国ではEVの価格競争に入る。部品単品ではなく、モジュールで提供することが求められ、必然的に企業同士の統合が考えられる。またEV化の波に乗れなかった完成車メーカーに部品を納めるサプライヤーは成長を求めて、他のサプライヤーと連合を組むことになり、業界で新たな関係が生まれることが予測される。(談)


【関連記事】 EVでも成長を目指すオイルシールメーカーの圧倒的強さ
日刊工業新聞 2023年07月28日

編集部のおすすめ