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どう差別化するか?…トヨタがEV戦略で追求するキーワード

どう差別化するか?…トヨタがEV戦略で追求するキーワード

トヨタは電気信号でタイヤの角度を制御する「ステアバイワイヤ」の実用化も進めている。ハンドルの位置の自由度や、操舵時の動作負担軽減などを実現できる

トヨタ自動車が“モビリティー”の可能性を広げる取り組みを進めている。マニュアル操作できる電気自動車(EV)といった次世代自動車にとどまらず、階段も上れる電動車いすや、地方の課題解決になり得る自動運転型の移動販売車など、対象は幅広い。トヨタは「移動価値の拡張」を、経営方針である「モビリティーカンパニーへの変革」の重点要素に据える。パワートレーン(駆動装置)だけでなく、使い勝手や乗り心地、モビリティーの種類も多様化し、変革を目指す。(編集委員・政年佐貴恵)

「クルマ屋ならではのEVを作る」―。動力や車両構造といったハードウエアがコモディティー(汎用品)化するEV。既存の自動車メーカーではない新興勢も含めて各社が投入を加速する中、差別化策は大きな課題だ。トヨタはこれまで長年培ってきた技術やノウハウを生かすことを、EV戦略の一つに掲げる。中嶋裕樹副社長は「クルマの定義や使われ方が変わる中でも、愛着を持てるものが『クルマ屋が作るEV』だと思っている」と解説する。

その答えの一つとして提示するのが、「マニュアル操作できるEV」だ。EVにシフトレバーやクラッチペダルを付け、シフトを切り替えた際の操作感や加速感などをソフトウエアで制御することで、まるでマニュアル車を運転しているような感覚を味わえる。エンジン音もスピーカーから再現しており、実際に乗ると伝わる振動にEVだということを忘れてしまいそうになる。一方、マニュアルとオートマ機能はボタンで切り替えられるため、気分や運転者に合わせた使い分けが可能だ。

ソフト制御で乗り味変化

EV戦略でのもう一つのキーワードが、トヨタらしいEV。では“トヨタらしさ”とは何か。中嶋副社長は「ロングセラー車種を複数持つ点が、我々ならでは」との認識を示す。ロングセラーを生み出す過程で蓄積してきた走行データや、顧客からのフィードバック情報などは資産そのもの。その特徴を体現したのが、ソフト更新により1台でさまざまな車の乗り味を体験できる「オンデマンドEV」だ。

6月に開いた技術展示会では、1981年に発売したクーペ「初代ソアラ」、高級スポーツ車「レクサスLFA」、小型乗用車「パッソ」、北米で販売するピックアップトラック「タンドラ」の乗り味やエンジン音などを再現できるEVを披露した。「ソフト制御だけで、ここまで変えられるのか」というほど、同じ車に乗っているとは思えない感覚だ。中嶋副社長は「過去、現在、未来をつなぐことができるのも、クルマ屋の経験価値があるからではないか」と話す。EVの価値の軸であるソフトの領域に従来の知見を盛り込むことで、新たな魅力を打ち出す。

移動価値の拡張 自動車ユーザー以外に照準

トヨタは4月、目指すモビリティー社会の姿を示す「トヨタモビリティコンセプト」を定義した。そこで挙げられたのが「移動価値の拡張」だ。別のモビリティーや社会インフラとつながることで、車に新たな役割と存在意義を与える狙い。そこで、自動車ユーザーではない層に向けた開発も強化している。

階段などの段差や悪路を介助なしで移動できる、トヨタが開発中の電動車いす「JUU」

電動車いすの「JUU(ジェイ・ユー・ユー)」は、手元のスティック操作一つで階段など段差のある道を走行できる車いすだ。一般的な電動車いすでは大きい段差を自ら乗り越えることができず、介助が必要になる。開発担当者は「車いすユーザーにも移動の自由を提供したい」と狙いを語る。

車いす後部に取り付けた可動式の棒状の「しっぽ」が下がって車体を支えることで、階段の上り下りや、砂利道のような凸凹のある不整地の移動を可能にする。「シンプルな構造で従来は困難だった場所を走破できる点がポイント」(担当者)だ。駆動モーターなど、構成部品には車載部品を応用する計画で、品質の信頼性やコスト面でも効果が期待できる。実用化の時期は未定だが、2024年ごろをめどに数台規模での実証試験を始めたい考えだ。

新たな役割・存在意義

箱形の自動運転EV「イーパレット」も、1―2年内の商用化を視野に用途の多様化に取り組んでいる。車内を自在に活用できるよう、運転席をなくした仕様を開発。天井にレールを設け、棚を簡単に取り付けられるアタッチメントを用意するなど、短時間で車内のレイアウトを変えられる「移動式コンビニエンスストア」などの提案を進めている。例えば朝は自動運転シャトルバス、日中は物販、夜はカフェ、といった使い方が可能だ。

運転席をなくし車内空間の活用度を高めた、トヨタの自動運転型EV「イーパレット」

自動運転式のMaaS(乗り物のサービス化)車両は、移動困難地域での買い物や住民サービスなどへの活用に期待がかかる。一方、車両コストの高さから収益化が実用化の課題だ。1台の車両で複数のサービスが提供できれば、収益源も増やせる。ベース車両からユニットを入れるのにかかる時間は20―30分程度で、担当者は「入れ替えの時間を急速充電に充てることもできる」と話す。既存事業から移動の先にある価値創造まで、好循環を生み出せるか。新技術の今後の社会実装が楽しみだ。


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日刊工業新聞 2023年08月15日

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