昨年度赤字の10兆円大学ファンド、大学院生の支援焦点に
科学技術振興機構(JST)が運用する10兆円の大学ファンドの2022年度収益額は604億円の赤字となった。海外での利上げで債券価格が下がり、保有資産の評価額が目減りした。その中で国際卓越研究大学などへの配分額の原資となる総利益は742億円を確保した。この約3分の1が配分に当てられる。課題は卓越大への助成とは別に、博士課程大学院生への支援に約200億円を見込んでいた点だ。24年度の概算要求に向けて調整が続いている。(小寺貴之)
「助成財源は680億円を確保している。24年度助成開始に向けて取り組みを進めていきたい」と永岡桂子文部科学相は説明する。大学ファンドは赤字でも助成財源は確保した形だ。22年度の収益額は604億円の赤字。10兆円規模の元本比ではマイナス0・6%となった。収益率はマイナス2・2%。元本比より収益率のマイナスが大きくなっているのは、元本の変動を排除するために時間加重収益率を計算しているためだ。22年度は22年10月から23年3月にかけて6回に分けて4兆8889億円の財政融資資金を借り入れて約10兆円を用意した。元本が年度後半に大きくなったため、元本比が小さく見えている。
実際の運用成績は時間加重収益率のマイナス2・2%がより実態を表している。同年度の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の収益率はプラス1・5%のため、大学ファンドは不安定な市場に苦しんだ形だ。資産構成の立ち上げ期であるとしてリスクは許容値の4割しかとらなかった。円安は収益へプラスに働いたものの、為替リスクを抑えるための為替予約取引などで効果が部分的に相殺された。自家運用のグローバル債券は収益率がマイナス3・6%で収益額はマイナス1263億円と目減りした。グローバル株式は収益率がプラス1・7%で収益額は655億円と健闘したが埋め合わせには至らなかった。
この評価損は債券の価値が上がれば回復する可能性がある。そのため卓越大などへの助成財源は、現金化するなどして利益を確定させた損益計算書上の当期総利益で計算する。22年度は742億円で、21年度の繰越欠損金62億円を引いた680億円が財源になる。6000億円分のバッファを確保するまでは3分の1程度が助成に当てられる。そのため約226億円が助成に回せる額になる。
ファンドは赤字でも助成は可能だ。この根拠となる損益計算書を含む財務諸表は、文科相の承認を経て8月ごろに開示される。
課題は大学ファンドからの助成には卓越大と博士課程の大学院生への支援を見込んでいた点だ。卓越大はふさわしい提案がなかったからと1校も採択されない可能性もあるが、大学院生支援は23年度は236億円の事業として動いている。
このうち当初予算として確保されているのは36億円。21年度補正予算で22―23年度分として400億円が確保され、24年度からは大学ファンドの運用益を当てることが想定されていた。補正予算事業は大学ファンドの先行事業の位置付けで、当初予算事業は補正予算事業とすでに一体化されている。約9000人に生活費や研究費として二百数十万円程度を支給している。
22年度にファンド運用で確保できた金額は大学院生支援の金額とほぼ一致する。ない袖は振れないため、支援や助成を絞るか、24年度予算として新たに財源を確保する必要がある。ファンド運用益を政策財源に当てるリスクは構想当初から指摘されてきた。そして事業開始前からリスクが顕在化している。24年度概算要求は文科省にとって正念場となる。