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スカイラインで初投入、日産が「NISMO」ブランドが目指すモノ

スカイラインで初投入、日産が「NISMO」ブランドが目指すモノ

「スカイラインNISMO」と(左から)片桐隆夫日産モータースポーツ&カスタマイズ社長、星野一義ホシノインパル代表取締役、長谷川聡日産モータースポーツ&カスタマイズチーフ・ビークル・エンジニア

走り重視、レース知見で完成度高める

「大人のセッティングになっていて、個人的に一番好きだ」―。元レーシングドライバーで、現在もレーシングチーム「チーム インパル」を率いる星野一義氏は、日産自動車が9月に発売する「スカイラインNISMO」の乗り味を褒めたたえた。日産は1936年から続けるモータースポーツで培った知見や技術を、「NISMO」仕様として市販車に展開。電動化が進む自動車業界で、スポーツ車を愛するユーザーの根強いニーズに応えている。(編集委員・錦織承平)

9月に発売する「スカイラインNISMO」は、レース用エンジンに関わった技術者によるチューニングを施し、最大出力を405馬力から420馬力に向上。最大トルクも475ニュートンメートルから550ニュートンメートルに引き上げて、力強い加速を実現した。高いトルクをしっかりと路面に伝えるためにリアタイヤの幅も20ミリメートル拡大して、走行を安定させた。

長距離を高速で走る「グランドツーリング(GT)カー」としてファンの人気を集めてきた「スカイライン」にNISMO仕様を追加するのは今回が初めて。NISMO事業を手がける日産モータースポーツ&カスタマイズ(神奈川県茅ケ崎市)の片桐隆夫社長は「日産の財産である車種に対する高性能化の強い要望に応えたかった」とNISMO仕様車の投入理由を説明する。

NISMOは日産がモータースポーツで培った技術を、一般道を走るロードカー向けに展開するブランドとして84年にスタートした。2022年には特装車製造を手がける「AUTECH」事業とともに、新会社「日産モータースポーツ&カスタマイズ」として統合。モータースポーツやカスタマイズ(個別対応)の専門技術とノウハウを市販車に展開している。

NISMOブランドはこれまで数々のスポーツ仕様車を送り出してきたが、日産の設立90周年となる23年には「フェアレディZ」と「スカイライン」にNISMO仕様車を相次ぎ投入。現在、NISMO仕様車は「GT―R」「オーラ」、電気自動車(EV)の「リーフ」などを合わせた計6車種に設定されている。

NISMOが目指すのは「より速く、気持ちよく、安心して乗ってもらえる車」。例えば、車体の下部や後部などに取り付ける「スポイラー」という部品も、空気抵抗を低減しながら、それによって生まれる揚力を抑えて車体を地面に押し付ける力(ダウンフォース)も向上させるために最適の設計を施す。その仕様は「100%走行性能のためで、見た目の格好の良さのためではない」(上遠友貴彦日産自動車ニスモビジネスオフィス担当部長)といい、レース車のような性能を楽しみたい顧客の根強いニーズに応えることに力を注ぐ。

NISMO仕様車はベースとなる車両を改造するが、一般のチューニングショップで部品を交換するのとは異なり、日産がカーレースから学んだ技術を市販車として作り上げ、「車全体の完成度を目指す」という。NISMO仕様を求める顧客は、その付加価値に対してベース車両より高額な費用を払う。

その最も顕著な例は「GT―R」のNISMO仕様だ。22年度の実績では「GT―R」の販売台数の実に45%がNISMO仕様車となっており、ベース車両に対する付加価値額(価格差)は約1254万5000円。ベース車両価格の90%に相当する額を追加していることになる。

NISMO仕様車とAUTECHのカスタマイズ車が22年度の日産の国内販売台数に占めた割合は8・4%。燃費が良くて環境負荷の低い電動車の普及が進む中でも、モータースポーツのような乗り味や個性あるカスタマイズ仕様に対して、一定の対価を払う顧客層が根強く存在している。

片桐社長は今後のNISMOブランドの展開について、「基となる日産の車が電動化に向かう。NISMOも電動車であっても高性能化していくための知見をためていきたい」とし、電動車時代に対応しながらも根強く存在する自動車ファンのニーズを開拓していく考えだ。


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日刊工業新聞 2023年08月11日

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