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論文引用の増加期待、東北大などが米学術誌と始める新ビジネスモデル

東北大学、東京工業大学、総合研究大学院大学、東京理科大学は、学術雑誌の大手出版社ワイリー(米ニュージャージー州)と、オープンアクセス(OA)を推進する「転換契約」の覚書を交わした。大学図書館での購読料支払いに加えて、研究者が無料のウェブ論文を発信できるオプションが入る。これにより各大学発の研究論文の引用増が期待できる。タイプの異なる4大学の連携で実現したことも、他大学の注目を集めそうだ。

各大学図書館と同社による覚書の転換契約は2022年4月から。同社出版の全ジャーナルの閲覧に加え、約1400タイトルのジャーナルで各大学の研究者が論文掲載料を払うことで、自らの論文をOA化する権利が生じる。

これは、これまでは大学が論文閲覧のため出版社に費用を払う「ジャーナル購読モデル」だったが、OA化を認める論文掲載料による「OA出版モデル」へ、段階的に転換することを意味する。閲覧が紙媒体から電子に変わる中で、OA化は学術界だけでなく、特許など産業界での引用増も後押しし、研究論文の社会への影響が高まると期待できる。

4大学はそれぞれ国立総合大、国立理工系大、国立研究機関が関わる国立大、私立理工系大。日本の複数大学と世界的な大手出版社の間の転換契約は初。ワイリーは他国で同様の展開をしている。

日刊工業新聞2022年2月23日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
伝統的な雑誌のビジネスモデルは、一般的な雑誌を含めて読者の購読料で成り立っている。対して、オープンアクセスジャーナルは、著者が費用を負担する掲載料形式のモデルが多い。今回は、大学の研究者が「読者であり著者である」という論文ジャーナルの特性を生かし、ビジネスモデルを旧型から新型へとシフトさせていく流れの中で、二つをブレンドさせて軟着陸を図っているようだ。

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