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東大・早大・東北大・東工大…10大学が研究論文誌の転換契約で試験プロジェクトを始める狙い

東京大学早稲田大学など研究大学10大学は1月から、世界的な学術出版社のシュプリンガーネイチャーと、研究論文ジャーナルの転換契約でパイロットプロジェクトを始める。従来の論文の閲覧費を、論文掲載費へと段階的に変え、論文のオープンアクセス(OA)化を進める。無料で広く読まれるため研究成果の世界発信強化につながり、論文引用数増も期待される。

参加するのは他に東北大学東京工業大学、横浜国立大学、福井大学、大阪大学、神戸大学、岡山大学、東京理科大学だ。研究大学コンソーシアム(RUC)などで論文問題を議論してきた。

シュプリンガーネイチャーはプロジェクト参加大学に対し、同社の2000誌以上のジャーナルで、年計約900報のOA出版枠を提供する。これにより参加大学の研究者からOA出版される論文数が4倍以上になる。

論文出版は従来、大学の研究者らが論文を閲覧するために、大学図書館が出版社に費用を払う「ジャーナル購読モデル」だった。近年は研究者の著者側が、OAで閲覧無料のウェブ論文を発信することを認める「OA出版モデル」へシフトしつつある。

転換契約は論文閲覧費を論文出版費(論文掲載料)へ、段階的に仕組みを変えるためのものだ。新たなOA枠設定で、研究者のOA論文出版コストを抑えながら、多くの研究者がOA出版を実現できるようにする。

論文引用の増加期待、東北大などが米学術誌と始める新ビジネスモデル

日刊工業新聞 2022年11月24日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
論文ジャーナルの出版社のうち、世界的に影響力が大きいのは3社。ドイツのシュプリンガーネイチャー、オランダのエルゼビア、米国のワイリーだ。主要なジャーナルを抑えているため市場価格における競争原理が働きにくく、近年の価格高騰などの問題を招いていた。しかし購読料メーンではなく、掲載料による、出版社も大学図書館も納得の新ビジネスモデルへの転換が、日本でも動きだした。春に東北大学など4社がワイリーと転換契約を結んだのに続き、今回は10大学とシュプリンガーネイチャーだ。参加大学数が多くなったのは、研究大学コンソーシアムが深く関わったためだ。今年は論文ジャーナル問題における転機といえるに違いない。

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