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愛媛大、和歌山大、三重大…地方大の地域連携が真剣味を増すワケ

愛媛大、和歌山大、三重大…地方大の地域連携が真剣味を増すワケ

愛媛大が地元水産業と連携して手がける、養殖の親魚移送(同大提供)

地域の中核となる大学や特色ある大学への支援を政府が強化する中、地方大学の地域連携が従来以上に真剣味を増している。国立大学は産業振興に直結する理工系に加え、近年は1次産業のイノベーションや観光の新学部などで、新たな形に取り組んでいる。愛媛大学、和歌山大学、三重大学の事例からヒントを提供する。(編集委員・山本佳世子)

愛媛大:研究テーマ・資金ともに獲得

【愛媛大】研究そのものに加え、それを支える資金などを獲得する仕組みという“研究の両要素”で、成果を上げる大学の一つが愛媛大だ。同大が持つ紙や水産の研究拠点は、愛媛県や町から敷地や建物の無償供与を長年受けている。常勤教員約5人、学生・地元企業人30―50人規模での活動が評価されてのことだ。規模の小さい多数の拠点でも、兼任教員は各10―30人規模で関わっている。

仁科弘重学長は「技術相談も安く請け負うな、と学内では言っている」と強気だ。連携相手の自治体から毎年度、評価を受け、活動を改善している自負を持っての発言だ。

同大は隣県の高知大学と連携し、文部科学省事業の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」に応募中だ。持続的食料生産という研究テーマに加え、研究支援のリサーチアドミニストレーター(URA)活動や拠点設置の面でも、連携の相乗効果を出そうとしている。

和歌山大:産学官の共創体制構築

【和歌山大】和歌山大の場合は、「紀伊半島価値共創基幹」(Kii―Plus、キープラス)を2020年に立ち上げたのが転機だ。自治体などの相談対応件数を3年間で約3倍に伸ばした。

ポイントの一つは企業や自治体の実務担当者が同大で週1回程度活動する、クロスアポイントメント(複数組織との雇用契約)だ。和歌山県海南市、同県社会福祉協議会、南海電鉄から計3人が活動する。

リーダー役で常勤の小川雅則プログラムオフィサーも自治体出身だ。「多様なニーズや資金・人員の提供を含めた本気度など、大学人とは異なる切り口で目利きをしている」と強調する。この中から世界遺産・熊野古道を生かした観光商品の開発や、百貨店での和歌山グルメイベントなどが生まれている。

三重大:地元経営者向け博士教育

三重大の地域イノベーション学研究科は、地元社会人への実践教育で評判(同大提供)

【三重大】ターゲットを地元企業の経営者に絞った博士育成で注目されるのは、三重大の大学院地域イノベーション学研究科だ。大学院後期課程は定員6人を常に超過する人気で、8割が社会人だ。

工学やバイオテクノロジーなど各専門分野と、技術の社会実装に向けたプロジェクトマネジメントの2教員から指導を受ける。修了要件の査読論文数は1報と、通常に比べ少ないが、新事業創出の実践型博士人材として社会的な評価を得る。

例えば伊勢神宮近くの食堂「ゑびや」の経営者は、路線を参宮のハレの日の食事提供に変更。人工知能(AI)での顧客予測で自社を急成長させた上に、中堅企業向け顧客予測コンサルティングのIT会社を設立した。他にも、小規模トマト栽培農家が余剰エネルギーやロボットを活用した大規模ハウスで発展し、キウイ栽培でニュージーランド企業と提携した例もある。

もっとも同研究科は社会経験のない学生も抱える。諏訪部圭太研究科長は「若い世代には起業を後押しする学びなど、それぞれの希望をかなえる共創の場にしたい」と力を込める。地方大学はかつてより格段に、高度な工夫が求められている。

日刊工業新聞 2023年07月20日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
3大学の例はそれぞれ特徴的だ。地域で他に有力な理工系がない場合は、愛媛大の形が有力だ。「外部人材の活用は、フルタイム雇用は難しくても、週1なら費用対効果が高い」という点では、和歌山大のケースが特に、多くの大学で参考になる。地方大学が大学院を新設したい場合は、実際に三重大へ相談がよく寄せられるという。地域・特色大学で有効な、好事例共有の一助に、この記事を活用してほしい。

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