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高度外国人材を大抜擢、人手不足乗り越える中小企業を追う

高度外国人材を大抜擢、人手不足乗り越える中小企業を追う

HCIに入社4年目のインド出身のスリプラム・サチャナラヤナ・ウェンカテシュさん。食事の配膳などを行う人間型ロボットのソフトウェア開発のプロジェクトリーダーを務める

中小企業の人手不足が深刻化する中で、特にIT関連やロボットなど高度な技術やノウハウを持つ人材が集まりにくい現状がある。そこで海外人材に目を向け、大学などを卒業し専門的な技術や知識を持つ高度外国人材の採用を積極化し、事業経営にうまく活用する企業がある。大阪府の中小の取り組みを追った。(大阪・池知恵)

ロボットシステムインテグレーター(SIer)のHCI(大阪府泉大津市、奥山剛旭社長)は近年、主力の産業用ロボットに加え、新たにサービスロボットの開発に力を注いでいる。その中でも食事を配膳する人間型ロボットなどのソフトウエア開発を担うプロジェクトリーダーに、入社3年目だったインド出身のスリプラム・サチャナラヤナ・ウェンカテシュさんを抜擢(ばってき)した。

HCIは2002年にケーブル製造装置の製作会社として創業。当時は会社の知名度が低く、国内で優秀な人材が集まりにくい状況だった。そこで14年ごろから日本語能力が高く技術力のある高度人材を採用したところ「非常に優秀だった」(奥山社長)ことから採用を強化。今では全従業員60人のうちインドや中国などから約10人を雇用し、ロボットのシステム開発や機械設計、営業など多様な部門で活躍している。

一方で外国人を雇う上でのリスクもある。「異国の地で働く我が子を心配し、親が子を呼び戻すケースも少なくない」(同)。だからこそ「私が親代わりになってサポートすること」を心がける。日頃の業務で頻繁にコミュニケーションを取ることはもちろん、行政の手続きや病気に罹患(りかん)した時などは総務部がサポートできる体制を整える。

長谷川工業が提供する、ARを活用した営業支援ツール「メーカーパーク」。現在は外注で対応しているが、今後内製化に向けた開発を進めている

脚立やはしごの老舗企業である長谷川工業(大阪市西区、長谷川泰正社長)も、拡張現実(AR)を活用した営業支援ツールなどの開発に向け、このほどインド出身で新卒のITエンジニアを採用した。

ARの営業支援ツールは現在外注で対応しているが、開発コストを抑え、開発スピードを上げるための内製化などを考えていた。国内ではなかなか人材が見つからず、IT大国のインドに目をつけた。「課題の提示に対してのアウトプットが早い」(渡辺和夫取締役)と好感触を示す。

精密機械部品を製造する三共製作所(大阪府東大阪市、松本輝雅社長)は、20年以上前から外国人を採用してきた。現在、全従業員のうち約半数は外国人だ。技能実習生は単純作業、高度人材には技術の中枢となる部分も任せる分業制をとり、マネジメントしやすい体制をとりつつ、品質を維持してきた。

ただ技能実習生の中でも技術にほれ込んだ従業員には、本国の大学で勉強させ高度人材で再雇用した事例もある。「大学の費用は全て会社が負担。再び会社で働けることをすごく喜んでくれた」(松本社長)。働くことへのモチベーションの維持も重視する。

厚生労働省によると、日本で働く外国人労働者は22年10月時点で182万人余りと過去最大となった。中小企業にとって人材確保の好機と捉える一方、優秀な人材を呼び込むためには賃金だけではなく「事業を通じての社会貢献や、やりたいことを実現できる」(HCIの奥山社長)魅力ある企業づくりも重視する必要がありそうだ。

日刊工業新聞 2023年月7月25日

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