「越境リモートワーク」運用と法規制にはあいまいさも

  • 1
  • 8
市川さん

コロナ禍で普及したテレワーク。オンラインを使い、業務を継続する土壌が整ってきた。そんな中、遠く離れた国で働く「越境リモートワーク」が浸透し始めている。

国内は人手不足が深刻化しており、企業にとって新たな働き手を獲得する手段になりそうだ。ただ新しい概念だけに、法規制や運用にあいまいさが残る。

「都合に合わせて働ける」

「自分の都合に合わせて働けるので、子供と過ごし時間を取ることができるようになった」。イギリス・オックスフォードを生活拠点にウェブ制作のフリーランスとして働く市川千枝さんはこう話す。市川さんは業務代行を手掛けるニット(東京都品川区)のアウトソーシングサービス「HELP YOU(ヘルプ・ユー)」経由で仕事を請け負う。海外からのリモートワークについて、市川さんは「現地の言語面での不安があっても仕事ができる点はメリット」と話す。

リさん

人材紹介会社エンワールド・ジャパン(東京都中央区)のリ・ミンルさんはマレーシアから、社内のIT担当として働く。家族の都合でマレーシアへ帰国したが、「勤務内容はそのままで働くことができている」と話す。同社はコロナ禍以前からテレワークの制度を整えており、越境リモートワークへの移行は問題なかったという。

越境リモートワークは、オンラインで遠く離れた国から業務を行う勤務体系。全世界でリモートワークが広がり、国を同じにすることが必ずしも事業継続に必要な要件ではなくなった。これまで海外へ移住する際は、退職という選択肢を取らざるを得なかった労働者にとってもメリットだ。特にIT(情報通信)人材の領域は先んじて導入が進む。

越境リモートワーカーの派遣サービス

人材大手パソナはインドやベトナムのエンジニアをリモートで派遣するサービスを2021年11月から始めた。同社によれば、海外にはすでにリモートでIT人材を活用する取り組みがあったという。その中で、コロナ禍でリモートワークが一般化されたため、日本企業も越境リモートワークで人材を受け入れる業務的、心理的体制が整ってきたとみる。当初は撤退する海外拠点の従業員の雇用を継続したいというニーズが中心だったが、現在はプロジェクトごとに少人数の人員を確保する要望が増えている。そうした背景から、今後は紹介できる人材の数を増やしていく。

ただ、ITスキルに加えて、日本語能力を要求すると対象となる人材の数が少なくなるという。企業にはマネジメント体制の構築が求められそうだ。

フォースバレー・コンシェルジュ(東京都千代田区)も同様のサービス「Job Transfer」を展開。インドやネパールの教育機関と提携し、自社で半年から1年間、日本語教育を行う。コストをかけて日本語教育を行う理由について、柴崎洋平社長は「ネパールやインドにはIT人材が多い。ただ、彼らと日本企業の間に立つ人材が不足している」と説明する。日本企業の要望を海外在住のエンジニアに伝え、マネジメントできるプロジェクトマネージャーが不足していると考えており、そこに商機を見出している。現在、日本語教育を完了した人材は数十人ほどだが、今後は人数を増やす。3年以内にインドとネパールの人材を国内向けに500人ほどをリモートで派遣する計画だ。

各種ツールも

こうしたIT人材の働きぶりの評価や労務管理を支援するサービスも生まれている。ファインディ(東京都品川区)はエンジニア組織の業務管理ソフト「Findy Teams(ファインディ・チームズ)」を手掛ける。ソースコード共有サイト「ギットハブ」での活動状況などからエンジニアの働きぶりを定量化する。山田裕一朗社長は「IT業界ではエンジニアをマネジメントできる管理職が圧倒的に足りていない」と話す。同ソフトでITエンジニアのマネジメントを効率化し、管理職の負荷を下げる。現在の利用者はスタートアップが中心だが、「海外人材の活用を視野に入れている大手企業への導入も目指す」(山田社長)。

Deelのサービスイメージ

国ごとに規制が異なる労務管理は企業のコスト負担が大きい。米国Deelの従業員雇用サービスは150カ国以上の法規制に準拠した契約書の作成や締結、120の通貨での給与支払いを行える。労務管理のために現地法人を設立することなく、事業を開始できるのが強みだ。また正社員や業務委託など、さまざまな種類の契約に対応する。企業規模にあわせて機能も追加できる。同社は「日本ではITスタートアップの利用が多いが、大手企業の利用も狙いたい。今後1年で数百社規模の契約を目指す」としている。

一方で法規制にはあいまいさも

宇賀神弁護士

一方、越境リモートワークによる人材雇用については企業が憂慮すべきこともある。新しい概念のため、法規制があいまいな部分が存在する。森・濱田松本法律事務所(東京都千代田区)の宇賀神崇弁護士は「国境を越えたリモートワークの労働問題は、日本の法律だけでは対応できない部分がある」と指摘する。

労働基準法は日本国内の企業が、自社の業務に従事させるために雇用する従業員の保護を対象とする。そのため、該当の従業員には日本円をもって給与を支払い、社会保険などに加入する義務が生じる。ただ、この従業員が海外に在住する場合、給与を円か現地の通貨のどちらで支払うのか、使用する可能性が低い日本の社会保険に加入する必要があるかなど判断が難しい問題が生じる。特に、給与に関して日本の銀行の口座を持っていない外国人材においては、海外送金の手数料負担など企業側の事務手続きも必要だ。

ほかにも、帯同ビザで入国した人がリモートで働くことはできるのか、事実上の労働者を業務請負で従事させることはできるのかなど、多くのあいまいさを抱えている。

宇賀神弁護士は「労働者派遣には属地主義という概念があるので、実際の労働関係の実態から考えると必ずしも法的な問題とはならないこともある」と話す。その上で「懸念がある場合は現地の法律事務所に相談してほしい」と呼びかける。

アラブ首長国連邦(UAE)は海外企業にオンラインで働く人向けに「リモートワークビザ」の創設を21年3月に発表した。先進国の労働力不足が高まる中、国境を超える人材争奪戦はデジタル空間にも及びそうだ。日本のIT人材不足を解消する手段としての利用を促進するには、マネジメント方法の確立や法規制の明確化が不可欠だ。

ニュースイッチオリジナル

COMMENT

小林健人
デジタルメディア局DX編集部
記者

「海外で働く」というフレーズはよく聞きますが、「海外から働く」時代になったのは非常に興味深いです。距離的な制約から解放されるというデジタルの強みが発揮されているように感じます。ただ、言語面の壁をどう捉えるかという問題は残ります。習慣の違いなどをどう克服するのか、取り組みが気になります。

キーワード
越境リモートワーク

関連する記事はこちら

特集

このサイトでは、アクセス状況の把握や広告配信などのためにクッキー(Cookie)を使用しています。オプトアウトを含むクッキーの設定や使用の詳細についてはプライバシーポリシーページをご覧ください。

閉じる