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拡大する「海外IT人材活用」を支援するサービスとは?

企業の海外IT人材活用を支援するサービスが広がってきた。人材紹介サービスや、各国の法律に準拠した形で雇用契約や支払いを実現するITプラットフォーム(基盤)の提供などでサポートする。中国などでは現地や欧米のIT企業による人材獲得競争が激化しており、日本企業が選ばれるには海外人材のニーズへの対応や定着支援が不可欠。支援サービスでは、待遇や職場環境の改善に向けたコンサルティングも重要な要素になっている。(狐塚真子)

【各国の法律に準拠、雇用サポート】世界50カ国以上でエンジニア確保・派遣

米Deel(ディール、カリフォルニア州)は、海外人材をリモートで活用する企業向けサービスを手がける。従業員の代替雇用サービスでは、ディールが顧客企業と業務範囲を定義した上で、現地の人材を法令に準拠した形で雇用してリモートワーカーとして活用できるようにする。また企業が海外人材を雇用する際、各国の法律や税制に沿った形で雇用や給与支払いをできるようにするIT基盤を提供する。リモートワークの普及など、柔軟な働き方が広がる中、2021年に日本へ上陸した。

利用企業にとっては現地に拠点を設けず人材を確保できる点がメリットで、急成長を遂げるスタートアップなどの利用が多い。また「海外進出する日系企業の支援を行うシステム構築(SI)事業者からのニーズも顕在化している」(ディールの中島隆行カントリーヘッド)という。22年度は300件の導入を目標とし、その後2―3年はペースアップを図る方針だ。

ヒューマンリソシア(東京都新宿区)は、ITエンジニア派遣サービス「GIT(グローバル・IT・タレント)」を提供する。同社がインドやミャンマーなど世界50カ国以上でエンジニアを正社員として採用。ソフト開発や人工知能(AI)、データ活用などの分野で、IT事業者やユーザー企業に派遣する。グループ会社で教育事業を手がけるヒューマンアカデミー(同)と連携し、内定後約6カ月間で日本語教育を実施。技術力だけでなく「日本文化や慣習に興味がある人かを見極めることで、長期的に活躍できる人材を厳選している」(ヒューマンリソシアの今関彰範GIT事業本部長)。

21年度からはリモートでの人材活用サービスも開始したが、入国緩和の動きを受け、日本への移住を前提とした人材活用サービスの引き合いも増加。22年度は対面とリモート双方での採用体制をとり、300人超の人材採用を予定する。

パソナは、海外に在住するIT分野などのエンジニアを日本企業に紹介する「越境リモート人材サービス」を21年から提供する。コロナ禍で海外人材の来日が制限される中、同サービスを通じ、インドやベトナムなどのIT人材がシステム開発などの用途で活躍する。個人事業主としての業務委託や、同社海外子会社が雇用した上でBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスとして提供するなど、職種や業務、各国が定める労働関連法に基づきサービス提供している。

これら海外人材活用支援サービスの主なターゲットは、事業成長に伴い早急に人員を確保したいスタートアップや、顧客企業からデジタル変革(DX)関連の依頼が増えており人材を増強したいIT関連企業、DXを社内人材で進めたい製造業などの企業だ。

同サービスが広がる背景には、DX機運の高まりもあり、国内のIT人材不足が深刻化していることがある。経済産業省は19年に公表したリポートで、30年にIT人材の不足が低位シナリオで約16万人、中位シナリオで45万人、高位シナリオで79万人となる試算を示した。

自ずと海外人材に目が向く状況にあると言えるが、スタートアップの場合、採用活動に割ける人的資源が限られているほか、現地拠点を設けるには費用もかかるため、同サービスへのニーズが生まれている。大手の場合、現地法人を設置し、大規模に人材確保を行う選択肢もあるが、求める人材像を理解した専門家が厳選した人材を、迅速に確保できる点が同サービスの利点になっている。

【待遇・職場環境改善もカギ】GAFA、新卒給与2000万円

一定の技術力を身に付けたIT人材を大量に獲得する方法として、以前からIT企業がアジア諸国に進出する動きはあった。一方で、より一層高度な技術を有する人材の確保という側面ではアジア内でも変化が起きている。

例えばインドでは、米IT大手「GAFA」が優秀な学生の囲い込みを行う動きがみられ、IT大手に多くの人材を輩出するインド工科大学の卒業生には、新卒でも2000万円以上の給与が提示される状況だ。ディールの中島カントリーヘッドは「バングラデシュに開発拠点を設けていた日本企業が、他国企業に2倍の給与を提示され、優秀層を一気に引き抜かれた事例を聞いた」と話す。

給与の問題だけではない。日本企業の多くは外国人材を採用する際に「日本語が話せること」や「日本への移住」などを前提条件として掲げるが、これら全てをクリアできる人材は限られる。仮に現場が英語でのやりとりに対応できても、人事部が英語に対応できないために、人材を受け入れられないことがあるのも事実だ。

これら問題にどう対処すべきか。ヒューマンリソシアは、エンジニアへの支援体制の重要性を説く。同社では在留資格手続きや、住居などの生活環境の整備を実施。ビジネスメールの書き方など、日本でのビジネスマナーを共有する場も提供するなど、エンジニアが活躍できる環境を整える。

今関事業本部長は「日本企業は海外人材の採用に漠然とした不安を抱えている」と指摘した上で、むしろ「(海外人材に合わせて)『英語を使って技術調査を行うことで、海外の最新技術をプロジェクトに生かせる』などの副次的効果も得られる」と説く。同社の人材支援ノウハウを顧客にも共有し、企業のグローバル化を後押しする。

パソナグループではIT人材の育成にも注力している。19年にはベトナム・ダナン市と連携し、IT分野などの人材育成を進めている。一方で、現在は「エンジニアとしての活躍が期待できる未経験者層も減っている状況」(パソナテックの平野恭祐特別法人事業部長)となっており、企業は獲得したIT人材をいかに定着させるかが重要となっている。

平野事業部長は「エンジニアの中長期的なキャリアプランを見越した上で適切な仕事や報酬を提示したり、福利厚生を充実させたりすることが重要」と指摘。またパソナの小林景子グローバル事業本部副事業本部長は「就業規則の制定支援など、コンサルティングサービスも含めて提供し、企業の海外人材活用を伴走型でサポートしていく」と方針を示す。

海外人材の受け入れ態勢のあり方についてのコンサルの巧拙や、人材定着支援に関するノウハウの有無が、海外人材活用支援サービス各社の差別化のポイントになりそうだ。

日刊工業新聞2022年7月8日

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